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ブラックホールの周囲をかこむ降着円盤

Posted by moonrainbow on 02.2023 ブラック・ホール   0 comments   0 trackback
ブラックホールの周囲をかこむ降着円盤を実験室で再現することに成功

ブラックホールの周囲

ブラックホールの周囲にある降着円盤を実験室で再現
 
イギリスの研究チームが、ブラックホールの特徴を人工的に再現することに成功したそうだ。

 ブラックホールを実験室で再現しようという試みは以前にもあったが、今回はブラックホールの周囲を公転しながら落下する物質によって形成される円盤状の構造「降着円盤」の再現だ。

 『Physical Review Letters』(2023年5月12日付)に掲載されたこの研究では、降着円盤から噴出されるジェットまで観察されており、ブラックホールの秘密を解き明かすツールとしての利用が期待されている


回転するプラズマリング、ブラックホールを囲む「降着円盤」
 
「降着円盤」とは、ブラックホールに引き寄せられた物質が、ブラックホールに向かってゆっくりと渦を巻くことで作られる、高温で回転する円盤のような構造のことだ。

 インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームは、プラズマを利用した「MAGPIE(Mega Ampere Generator for Plasma Implosion Experiments)」という装置で、この降着円盤を再現した


ブラックホールの周囲1
photo by iStock
 
「プラズマ」とは、固体・液体・気体に続く物質の第4の状態のこと。

 物質を熱すると、固体から液体、気体へと変わるが、さらに熱すると原子の電子やイオンが自由に動き回れるようになる。この不安定な状態の原子がプラズマだ。

 ごく身近なものなら蛍光灯がそうだし、炎や雷だってプラズマだ。

 今回の実験では、8つのプラズマ源をおもちゃの風車のように円形に配置し、中心から少しズラした位置を狙って放出した。

 すると、その中心にブラックホールをかこむ降着円盤のような、回転するプラズマのリングが作り出された


ブラックホールの周囲2

8つのプラズマビームによって作られた回転するプラズマのリング / image credit:Valenzuela-Villaseca

 実際のブラックホールからは強力なジェットが放出されているが、このプラズマリングからも同じようなジェットが確認されている。
ブラックホールの謎を解明する手がかりとなる可能性
 この実験では、プラズマ源が長持しないため、直径6mmほどのリングがわずか210ナノ秒(0.000000210秒)出現しただけだ。

 それでも衝突するプラズマは重力に似たものを作り出すので、ブラックホールのような超重力がない状態でも降着円盤を研究する実験ツールになるそうだ


2023年05月25日
カラパイアより

ブラックホールの一部は別の現象

Posted by moonrainbow on 29.2023 ブラック・ホール   0 comments   0 trackback
ブラックホールの一部は、ブラックホールのように見える別の存在。「時空構造のねじれ」であるとする新たな仮説が発表される

時空構造のねじれ

ブラックホールの一部は別の現象であるとする新たな研究
 
極めて高密度で、強力な重力を持ち、光すら脱出することが不可能とされているブラックホールだが、まだまだ多くの謎に包まれている。

 これまで、ブラックホールと考えられていたものの1部は、実は別の存在かもしれないとする新たな研究が報告された。

 米国の研究チームが時空構造の奇妙な”ねじれ”(トポロジカル ソリトン)のそばを通る光を調べたところ、ちょうどブラックホールと同じになることが判明したそうだ。

 『Physical Review D』(2023年4月25日付)に掲載された研究では、ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームが、「ブラックホールはブラックホールのように見える別の存在」との仮説を提唱している。

これまでのブラックホール理論の問題点
 ブラックホールは、宇宙でもっとも謎と魅力に満ちた天体の1つだろう。無限の重力によって光すら逃れられないという話は、普段は星空に見向きもしない人たちだって好奇心を刺激されずにはいられない。

 ブラックホールは、巨大な星が自分の重さで崩壊することで誕生する。そうした星は「特異点」と呼ばれる一点へ向けて無限に圧縮される。

 こうして無限の密度をもつようになった特異点の周りには、光すら逃れられない領域が形成される。これがブラックホールの境界線である「事象の地平面(イベント・ホライゾン)」だ。

 ところが、こうしたブラックホール理論には1つ大きな問題がある。それはこの宇宙に無限の密度を持つ点などあり得ないということだ


 その一方、一般相対性理論が予言したブラックホールと同じように振る舞う天体は観測されている。だからブラックホールの本当の姿を理解するには、この特異点をもっと現実的な”何か”に置き換える必要があるのだ。

 だが、その何かが何なのかはまだ謎に包まれたままだ


時空構造のねじれ1
ブラックホールシステムの予想図 / image credit:LIGO/Caltech/MIT/Sonoma State (Aurore Simonnet)

量子重力と弦理論
 
この謎を解くには、量子のスケールで発揮される強力な重力「量子重力」を理解する必要があるとされている。

 今のところ、量子と重力を結びつけることができる確かな理論はないが、その有力な候補とされるのが「超弦理論」だ。

 この理論では、宇宙を構成するすべての粒子は、振動する小さな”ひも”でできていると考える。この宇宙にはさまざまな粒子が存在するが、それはひもの振動の違いによるものだ。

 ただし、ひもは私たちが認識できる3次元空間で振動するだけでなく、10次元の時空(諸説ある)で振動しているとされる。だが私たちが知る4次元以外の次元は、きわめて小さくまとまっているので簡単には観測できない


時空構造のねじれ2
強力なジェットを放出するブラックホールのイメージ / image credit: ESA/ATG medialab

ブラックホールと同じ現象を引き起こす時空構造のねじれ
 
今回の研究によるなら、この小さな余剰次元が、時空構造のねじれを生み出す可能性があるのだという。

 それは「トポロジカル・ソリトン(位相欠陥いそうけっかん)」と呼ばれるもので、アイロンをかけても取れない”シャツのしわ”のように、時空構造にいつまでも存在する。

 これは、宇宙のいたるところに潜んでいる可能性があり、ブラックホールと似た現象を引き起こしているのだという。

 研究チームが、ソリトンの近くを通過する光の振る舞いを調べたところ、ちょうどブラックホールとほぼ同じになることが判明したというのだ。

 光はソリトンの周囲で曲がり、安定した輪のような軌道になり、ソリトンは影を落とす


時空構造のねじれ3
キラルネマティック液晶で観測されたトポロジカル・ソリトンの一種であるツイストンの偏光光学顕微鏡画像 / image credit:ckerman and Smalyukh. Published by the American Physical Society

 つまり、2019年に史上初めて撮影されたM87銀河のブラックホールが仮にソリトンだったとしても、ほとんど同じように見えると考えられるのだ。

 だがソリトンは特異点ではないので、事象の地平面がない。その気になればいくらでも近づけるし、脱出することもできる。

 幸か不幸か、地球のそばに詳しく研究できるようなブラックホールはない。

 だが、もしも本当にトポロジカル・ソリトンが発見されれば、重力の本質の解明につながるだけでなく、量子重力や超ひも理論まで直接研究できるようになるとのことだ


2023年05月21日
カラパイアより

銀河間空間を猛スピードで駆け抜けているブラックホール

Posted by moonrainbow on 19.2023 ブラック・ホール   0 comments   0 trackback
超音速の「見えない」ブラックホールが銀河間空間を進行中

超音速の「見えない」ブラックホールが銀河間空間を進行中
銀河を駆ける超巨大ブラックホールの想像図(NASA, ESA, LEAH HUSTAK (STSCI))escaping black hole.NASA, ESA, LEAH HUSTAK (STSCI)

ハッブル宇宙望遠鏡を使用している研究チームが、科学者の間で超巨大ブラックホールと考えられているものが、銀河間空間を猛スピードで駆け抜けているところを発見した

その物体は太陽の2000万倍の質量を持ち、3つの銀河が合体した後、ブラックホールが定期的に存在する銀河の中心から宇宙へ飛び出したと考えられている。

その移動は非常に速く、もし太陽系の中にあれば、地球から月まで14分で移動できる。

The Astrophysical Journal Lettersに掲載された研究によると、そのブラックホールが通った後には、新しく生まれた星からなる長さ20万光年におよぶ痕跡があることが明らかになった。それは過去に見られたことのないものだった。


発見は偶然だった。「ハッブルの画像に目を通していたとき、小さな一筋に気づきました」とコネチカット州ニューヘイブンにあるエール大学のピーター・ヴァン・ドックムはNASAが「目に見えない怪物」と呼んでいる物体について説明した。

「それはこれまで見たことのある何ものにも似ていませんでした」


超音速の「見えない」ブラックホールが銀河間空間を進行中1
ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブ画像には、見慣れない線状の痕跡が写っていた(NASA, ESA, PIETER VAN DOKKUM (YALE); IMAGE PROCESSING: JOSEPH DEPASQUALE (STSCI))

「私たちが見ているのは、ガスが冷却されて星々を形成することのできるブラックホールが残した痕跡だと考えています」とヴァン・ドックムはいう。「見えているのは、船が通った後にできるものと同じような、ブラックホールの後にできた『航跡』です」

新しく生まれた星々の帯の幅は、天の川銀河の2倍。放浪するブラックホールが目の前のガスとちりをかき混ぜ加熱して、航跡の中に星が形成される理想的状態を作りだした結果のものだ。ブラックホール自体がガスとちりを消費しない唯一の理由は、その移動速度が速すぎるためだ。

「ブラックホールの前方にあったガスは、ガスの中を通過するブラックホールの超音速、超高速衝突のために衝撃を受けます」とヴァン・ドックムは言った。「正確な仕組みはまだわかっていません」

追跡観察は、ハワイ州マウナケアにある世界最大の光学赤外線望遠鏡であるケック天文台で実施された。次は、NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とチャンドラX線観測衛星を使用した観測で、ブラックホールの存在を確認する予定だ。

NASAが2027年に打ち上げを予定している広角のナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡が、宇宙のどこかにあるこれらの奇妙な形の物体をもっと見つけてくれることが期待される


forbes.より

ブラックホールの存在

Posted by moonrainbow on 13.2023 ブラック・ホール   1 comments   0 trackback
「位相欠陥(トポロジカル星)」の画像化 黒くないブラックホールのような天体

黒くないブラックホールのような天体
図1: 今回の研究でシミュレーションされた位相欠陥の外観

「ブラックホール」は非常に知名度の高い天体ですが、その存在がカール・シュヴァルツシルトによって最初に予言されたのは1915年です (公表は1916年) 。アルベルト・アインシュタインが一般相対性理論を発表したわずか1か月後に、シュヴァルツシルトは一般相対性理論を解くことでブラックホールに当たる天体が出現することを数学的に証明しました(当時はまだ “Black Hole” という名称は与えられておらず、1964年に初めて使用されました)

当初は実在が疑われたブラックホールですが、その後の天文学の発展により、ブラックホール以外では説明のつかない天体や天文現象が次々と発見されているため、今日では実在を疑う声はほとんどありません。しかし、ブラックホールは存在しないという考えは今も根強く存在します。その理由は「特異点」の存在です。

特異点はブラックホールの質量が詰まっている1点であり、大きさはゼロ、密度と重力は無限大です。問題は、ブラックホールが一般相対性理論の産物であるにも関わらず、その中心にあるとされる特異点の状態を一般相対性理論では解き明かすことができない点です。他の理論でも、特異点はブラックホール情報パラドックスといった厄介な矛盾を発生させます。

ある理論を解いた結果、その理論では取り扱えない何かが浮かび上がった場合、理論そのものに欠陥があるか、あるいは得られた結果が間違っているかのどちらかだと考えられます。一般相対性理論には今のところ(マクロスケールでの)欠陥は見つかっていないため、“ブラックホールは存在しない”と指摘する研究では、ブラックホールという“一般相対性理論を解いた結果”に何らかの間違いがあるのではないかと考えられています。

この場合、ブラックホールであると解釈されている天体は、実は “ブラックホールのように見える全く別の天体” ということになります。ブラックホールの存在を否定するためには、重力波の観測や直接撮影といった近年の天文学の成果と矛盾せず、理論的にも無理のない、“ブラックホールの代替天体”を示す必要があるのです


黒くないブラックホールのような天体1
図2: 位相欠陥とブラックホールの時空図の比較。ブラックホールの中心部には特異点があるため、先端部が尖っている。一方で位相欠陥には特異点がないため、先端は丸くなっている

ほとんどのブラックホールの代替天体は、一般相対性理論を超える枠組みの中で議論されています。一般相対性理論には特異点のような描写のできない限界が存在するため、一般相対性理論を置き換える拡張理論が模索されているのです。ブラックホールの代替天体は、拡張理論を作る過程で生じる、いわば副産物です。

ただし、現時点ではどの拡張理論も未完成の状態にあり、どれが正しいのかという議論にも決着がついていません。したがって、ブラックホールの代替天体の存在は、それを定義する拡張理論ごと否定される可能性があります。

ジョンズ・ホプキンズ大学のPierre Heidmann氏などの研究チームは、ブラックホールの代替天体のひとつである「位相欠陥(トポロジカル・ソリトン)」という天体について、理論的な内容と、その外観について検討を行いました。位相欠陥は「トポロジカル星」と呼ばれるタイプの天体の1種です。

位相欠陥は強い重力を持つ小さな天体であり、一見したところではブラックホールと見分けがつかないと考えられています。ただし、ブラックホールとは異なり、位相欠陥には中心部に特異点が生じません。非常に複雑に巻き上げられた時空によって、大きさのない1点に潰れてしまうことが回避されているからです。その一方で、“時空の巻き上げ”は表面にも表れるため、位相欠陥の外観にも影響を与えると考えられます


黒くないブラックホールのような天体2
図3: 位相欠陥とブラックホールの外観シミュレーションの比較。ブラックホールは真っ暗な領域が中心部にあるのに対し、位相欠陥は非常に複雑に歪められた背景が写っている

研究チームが検討した理論的枠組みは “余剰次元のある非超対称性な重力理論” ですが、簡単に言えば「量子重力理論 (一般相対性理論と量子力学の統合理論) の中でもあまり深堀りしておらず、現実的にありそうな理論」です。位相欠陥という考え自体も古くから検討されているため、その詳細を理論的に研究することができます。

ブラックホールの場合、強い重力によって近くを通過する光の進む向きが曲げられます。そして表面(事象の地平面)よりも内側に入った光は二度と抜け出せないため、外観は “ブラック” に見えます。

一方、トポロジカル星の場合は近くを通過する光の進む向きが曲げられるという性質はブラックホールと同じですが、表面を通過した光の運命は異なります。複雑に曲げられた時空によって光の軌道は複雑に変化するものの、やがて放出されます。このため、トポロジカル星の外観は “ブラック” ではなく、背景に由来する非常に歪んだ複雑な模様が見えるでしょう。

ただし、トポロジカル星の表面から放出される光は、背景の光を複雑に曲げて放出することになるため、非常に弱くなる上にノイズのように乱雑になります。仮にトポロジカル星を観測しても、降着円盤に由来する放射、重力レンズ効果で強められた背景の光、観測ノイズなどに紛れてしまい、表面からの光を観測することは極めて困難です。

そのうえ、トポロジカル星の周辺部の時空の歪みはブラックホールとほぼ同じであり、時空の歪み具合だけでは区別できません。このため、現在の技術ではM87中心部の画像のように“中心部が黒く見える=放出された光がない天体”として解釈されてもおかしくはありません。

現状の理論研究では、位相欠陥のようなトポロジカル星が実在するかどうかは不明です。ただし、将来的にはこのような天体の表面から放出される光を観測し、画像化することも可能であると予想されます。放出された光は赤方偏移をしているために、高重力の天体表面から放出されたのかどうか、そして位相欠陥を含め、どのような種類のトポロジカル星であるかを検討することができます。

また、このような弱い光の観測による画像化の試みでは、トポロジカル星以外に考案されているブラックホールの代替天体であるボソン星、グラバスター、ファズボールといった天体を可視化することができるかもしれません。技術と観測体制を発展させ、ブラックホールが存在するのか、あるいはブラックホールは存在せず、代替天体が存在するのかどうかを観測によって検討する余地はまだまだありそうです


Source
Pierre Heidmann, Ibrahima Bah, & Emanuele Berti. “Imaging topological solitons: The microstructure behind the shadow”. (Physical Review D) (arXiv)

2023年5月9日
sorae より

ブラックホール周辺の構造とジェットの根元

Posted by moonrainbow on 03.2023 ブラック・ホール   0 comments   0 trackback
超巨大ブラックホール周辺の構造とジェットの根元を初めて同時に捉えることに成功

超巨大ブラックホール周辺の構造4
グローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)にアルマ望遠鏡(ALMA)とグリーンランド望遠鏡を加えた体制で観測された楕円銀河「M87」の中心部。ジェットの根元(背景)と超大質量ブラックホール周辺のリング構造(拡大図)を初めて同時に捉えることに成功したという

上海天文台/マックス・プランク電波天文学研究所(MPIfR)のRu-Sen Luさんを筆頭とする研究チームは、楕円銀河「M87(Messier 87)」の中心から放出されているジェット(細く絞られた高速なガスの流れ)に関する新たな研究成果を発表しました。研究チームによると、M87の中心に存在する超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)周辺のリング状構造と、ジェットの根元を初めて同時に捉えることに成功したといいます

今回の研究成果の解説動画(ヨーロッパ南天天文台による英語解説)

「おとめ座」の方向約5500万光年先にあるM87は、中心からジェットを放出する活動銀河のひとつであることが知られています。こうした銀河中心からのジェット放出には超大質量ブラックホールが関わっていて、ブラックホールを高速で周回しながら落下していくガスの一部がブラックホールの両極方向に高速で放出されていると考えられています


超巨大ブラックホール周辺の構造2
参考:2019年4月にEHTが公開した楕円銀河「M87」中心にある超大質量ブラックホールのシャドウ

2019年4月、国際研究グループ「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope:EHT)」はM87中心の超大質量ブラックホール周辺を電波で観測することに成功したとする成果を発表し、その画像を公開しました。オレンジで着色されたリング状の像を目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。リングに囲まれた暗い部分はシャドウ(影)と呼ばれていて、ブラックホールそのものはシャドウの中心に位置するとみられています。

ただ、世界各地に建設された電波望遠鏡を連携させて1つの巨大な仮想の電波望遠鏡として機能させる「超長基線電波干渉計(VLBI)」と呼ばれる手法を利用したEHTの観測でも、超大質量ブラックホール周辺の様子が完全に解明されたわけではありませんでした。

EHTから公開されたリング状の像は、シャドウを取り囲むように見えると予想されるフォトンリング(光子リング)を捉えたものとされています。MPIfRによれば、これまでにブラックホールへと落下していく物質の流れ(降着流、accretion flow)そのものが直接捉えられたことはなく、ブラックホールがジェットを放出する仕組みには今も謎が残されています。

Luさんを筆頭とする研究チームは今回、北米と欧州にある14基(当時)の電波望遠鏡で構成された「グローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)」にチリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」とグリーンランドの電波望遠鏡「グリーンランド望遠鏡(GLT)」を加えた体制で、2018年4月14日から15日にかけてM87を観測しました。その結果、ブラックホール周辺のリング状構造と放出されたジェットの根元を同時に観測することに初めて成功したといいます。

研究チームによると、GMVAの観測で捉えられたリング状構造(直径0.017光年)はEHTの観測で捉えられた構造(直径0.011光年)と比べて約1.5倍大きく、より厚いものでした。コンピューターシミュレーションを用いて検証した結果、この大きくて厚いリング状構造はM87中心の超大質量ブラックホールを取り巻く降着流だと結論付けられています。MPIfRの所長を務めるJ. Anton Zensusさんは「これらの新たな成果は非常に重要です、ブラックホール周辺の降着円盤とジェットがつながる領域を初めて直接見ることができたからです」とコメントしています


超巨大ブラックホール周辺の構造5
M87の中心にある超大質量ブラックホールの周辺で円盤を形成する降着流と放出されたジェットの想像図

2017年にM87の観測を行ったEHTは波長1.3mmの電波を用いて観測を行いましたが、GMVAはそれよりも長い波長3.5mmの電波を利用しています。国立天文台によると、異なる波長を用いるEHTとGMVAは互いに補完し合う関係にあり、GMVAはEHTと比べて“視力”は半分程度であるものの、感度はより高く、視野はより広いという特徴があります。

ALMAとGLTが加わった2018年の観測ではGMVAの解像度は南北方向で4倍以上に向上しており、波長3.5mmを用いた観測でもブラックホール周辺のリング状構造を画像化できるようになったとされています。GMVAを構成する電波望遠鏡は北半球の東西方向に広く配置されていますが、リング構造とジェットを捉える高い解像度を実現するためには南半球に位置するALMAの参加が欠かせなかったといいます。

「これまではブラックホールとそこから遠く離れたジェットを別々の画像で見ていましたが、新たな波長帯を用いることで、ブラックホールを取り巻く詳細な構造とジェットを1枚のパノラマ写真の中に同時に収めることができました」(Luさん)


超巨大ブラックホール周辺の構造3
2018年4月のM87観測に参加した電波望遠鏡とその位置を示した図

“地球サイズの電波望遠鏡”として機能する国際的なVLBI観測網は、これからもジェット放出の謎を解明する上で欠かせない観測手段となります。MPIfRのEduardo Rosさんは「ジェットの放出をさらに研究するために、M87中心のブラックホール周辺を様々な波長の電波で観測する予定です」「今後数年間は刺激的なものになることでしょう、宇宙で最もミステリアスな領域のひとつの近くで起きていることをより多く学べるのですから」とコメントしており、超大質量ブラックホールがジェットを放出する仕組みの解明に向けた今後の観測に期待を寄せています。

また、国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘さんは「ブラックホール研究の歴史にまた新たな1ページが刻まれました。波長3.5ミリメートル帯を用いた観測は当初私たちが予想していたよりもはるかに強力で、波長1.3ミリメートル帯のEHTとともに、今後も一層観測が進むでしょう」とコメント。水沢局でも波長3.5mm帯の受信装置の開発・搭載試験が進められているといい、「今後は日本の電波望遠鏡も3.5ミリメートル帯国際ネットワークに加わることで、ブラックホール、降着円盤、ジェットの動画撮影にも挑戦していきたい」と今後の抱負を語っています


Source
Image Credit: R.-S. Lu (SHAO), E. Ros (MPIfR), S. Dagnello (NRAO/AUI/NSF), Helge Rottmann/MPIfR, S. Dagnello (NRAO/AUI/NSF)

2023年4月27日
sorae より
 

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