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ダークマターハローの質量

Posted by moonrainbow on 22.2023 暗黒物質   0 comments   0 trackback
クエーサーが生まれるダークマターハローの質量はほぼ同じ

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ダークマターハロー、銀河、ブラックホールの相互関係
ダークマターハロー(左)、銀河(中央)、超大質量ブラックホール(右)の相互関係を描いたイメージ図。ダークマターハローのスケール(数十万光年)を数十~数百倍に拡大すると1個の銀河のスケール(数万光年)になり、その中心をさらに数百億倍に拡大すると超大質量ブラックホールのスケール(数au)になる。(提供:東京大学大学院理学系研究科リリース)

130億年前の宇宙でクエーサーを取り巻くダークマターハローの質量が初めて測定された。クエーサーを持つダークマターハローの質量は時代によらずほぼ一定のようだ

銀河は、ダークマターの塊である「ダークマターハロー」の中で誕生したと考えられており、個々の銀河は光で観測できる星やガスの他に、その約10倍もの質量を持つダークマターハローを伴っている。また、ほぼ全ての銀河の中心には、太陽の数百万倍から数億倍の質量を持つ「超大質量ブラックホール(SMBH)」が存在する。

これまでの観測から、SMBHが重い銀河ほど銀河の星々の総質量も大きいという「銀河とSMBHの共進化関係」や、星々の総質量が大きな銀河ほどダークマターハローの質量も大きいという関係が知られている。これらを考え合わせると、初期宇宙に存在する銀河でも、SMBHが重いほどダークマターハローの質量は大きいという関係が成り立つと予想される


SMBHに星やガスがさかんに落ち込んで非常に明るい状態になっているものを「クエーサー」と呼ぶ。クエーサーは遠方(初期)の宇宙にあっても見えるので、初期宇宙の研究には欠かせない観測対象だ。しかし、クエーサーがどのくらいの質量のダークマターハローを伴っているのかは今までよくわかっていなかった。

ダークマターは光で観測できないので、ダークマターハローの質量を測定するのは難しい。ただし、ダークマターは星やガスなどの「普通の物質」に重力を及ぼすので、天体に働く重力を何らかの形で測定できれば、ダークマターの質量を間接的に見積もることができる。

そのような方法の一つとして、銀河の「群れ具合」を利用するやり方がある。質量が大きなダークマターの塊には周りから他のダークマターの塊が群れ集まるので、これらの塊の中で生まれる銀河やクエーサーも強く群れ集まった状態になる。そこで、銀河やクエーサーの「群れ具合」を測定すれば、付随するダークマターハローの質量を推定できるのだ。

しかし、クエーサーには遠い(=昔の)宇宙になるほど個数が減るという性質があるため、クエーサーの群れ具合を利用したダークマターハローの質量推定は、これまでは約120億年光年までが限界だった。

東京大学の有田淳也さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム)」を用いた遠方クエーサーの探査プロジェクト「SHELLQs(Subaru High-z Exploration of Low-Luminosity Quasars)」で見つかった107個のクエーサーを使い、約130億年前の宇宙でクエーサーの「群れ具合」を測定して、クエーサーを取り巻くダークマターハローの質量を見積もった


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SHELLQs(赤)と他の観測(青)によって、ある領域で発見されたクエーサーの個数の比較。約130億年前の宇宙で、SHELLQsは従来の観測より約30倍多くクエーサーを検出している。(提供:HSC-SSP/M. Koike/国立天文台))

解析の結果、約130億年前の宇宙ではクエーサーに付随するダークマターハローの質量は約5兆太陽質量という値になった。この結果を他の時代のクエーサーと比べると、クエーサーを取り巻くダークマターハローの質量は時代によらず、ほとんど一定であることがわかった

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クエーサーのダークマターハロー質量
各時代の宇宙で測定された、クエーサーを持つダークマターハローの質量。黒が過去の観測での推定値、赤が今回得られた推定値。横軸は時刻で、左端が現在を示す。曲線は様々な質量を持つダークマターハローの標準的な成長の仕方を示す。どの時代の宇宙でも、クエーサーを持つダークマターハローの質量は1012-13太陽質量の範囲に存在している(提供:東京大学大学院理学系研究科リリース))

一般には、ダークマターハローは時間とともにより多くのダークマターの塊を重力で集めて質量が増えていくはずだ。そこで、今回の結果を踏まえると、宇宙ではいつの時代でも、ダークマターハローの質量が特定の範囲に入るとSMBHの活動性が高まってクエーサーになるとも考えられる。つまり、SMBHをクエーサーへと「スイッチオン」させる普遍的な仕組みが、時代によらず宇宙には存在するのかもしれない

2023年9月19日
AstroArtsより

ダークマターのむら

Posted by moonrainbow on 12.2023 暗黒物質   0 comments   0 trackback
ダークマターの小さな「むら」をアルマ望遠鏡で初検出

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ダークマターのむら
今回検出された、3万光年程度のスケールを持つダークマターの「むら」。オレンジ色の明るい部分ほどダークマターの密度が高いことを示す。青白色の部分はクエーサーの重力レンズ像で、大きく4つに分かれている(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K.T. Inoue et al.)

クエーサーの重力レンズ像をアルマ望遠鏡で精密に観測した結果、ダークマターの密度分布に銀河よりも小さなスケールの「むら」が存在する証拠が初めて見つかった

宇宙誕生の直後には、光子やニュートリノ、クォークや電子などの物質粒子、そしてダークマターが生み出された。物質粒子とダークマターはどちらも質量を持ち、重力を及ぼし合うが、ビッグバン直後の物質粒子は荷電粒子のプラズマになっていて、光子とさかんに相互作用をしていたため、濃い部分が重力で集まって成長することはなかった。一方、ダークマターは光子と相互作用しないため、密度の濃い部分が重力で集まって成長し、星や銀河などの天体の「種」となった。

ビッグバンから約38万年後に、物質粒子がプラズマから中性の水素・ヘリウム原子になると、物質が光子と相互作用しなくなる「宇宙の晴れ上がり」が起こり、物質もダークマターの濃い部分に集まって、現在の恒星や銀河が誕生した。つまり、現在の宇宙の構造ができたのにはダークマターが重要な役割を果たしている


ダークマターは光(電磁波)で観測できないが、間接的に分布の様子を知ることはできる。遠くの天体と地球との間にダークマターの多い領域があれば、天体から届く光の経路がダークマターの重力でわずかに曲がり、天体の見かけの位置や形が変わる。この現象を「重力レンズ効果」と呼ぶ

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重力レンズ効果の概念図
ダークマターが引き起こす重力レンズ効果の概念図。光源のクエーサーから出た光は、手前の銀河による強い重力レンズ効果と、銀河の内部や銀河間空間にある小さなダークマターの塊が引き起こしたわずかな重力レンズ効果の両方を受けて進路を曲げられ、複雑に分裂して見えている(提供:NAOJ, K.T. Inoue)

こうした重力レンズ効果の観測から、大きなスケールでのダークマターの分布は、光で見える銀河や銀河団の分布とほぼ同じであることがわかっている。つまり、大きく重い銀河や銀河団にはダークマターもたくさん付随しているわけだ。だが、銀河よりも小さなスケールでダークマターがどのように分布しているかは詳しくわかっていなかった。

近畿大学の井上開輝さんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、おうし座の方向約110億光年の距離にあるクエーサー「MG J0414+0534」の重力レンズ像を詳しく調べた


このクエーサーは手前にある銀河の重力レンズ効果で4つの像に分かれて見えているが、井上さんたちの観測によって、クエーサー像の変形の仕方が、手前の銀河の重力レンズ効果だけでは説明ができないことがわかった。

そこで井上さんたちは、銀河の重力レンズのみの場合の像の見え方と、実際に観測された像とのずれから、光路上にダークマターの塊がどう分布しているのかを推定した。その結果、銀河よりも小さな複数のダークマターの塊によってクエーサー像がさらに歪められており、およそ3万光年のサイズでダークマターの密度に「ゆらぎ」があることが判明した。これは、天の川銀河の直径の3分の1ほどのスケールだ


これほど小さなダークマターの塊が起こす重力レンズ効果は非常に小さいため、これ自体を単独で検出することはきわめて難しい。井上さんたちはアルマ望遠鏡の高い解像度を利用して、初めて検出に成功した。

初期宇宙でどのように天体の構造ができるかはダークマターの性質によって変わるが、現在では、ダークマター粒子の速度が光速よりずっと遅い「冷たいダークマター(CDM)」モデルが観測によく合うとされていて、銀河の内部だけでなく銀河間空間にも小規模なダークマターの塊がたくさん存在すると予測されている。今回見つかったゆらぎは、CDMモデルの予測とよく整合するものだ


2023年9月8日
AstroArtsより

「ダークマター(暗黒物質)」とは?

Posted by moonrainbow on 17.2023 暗黒物質   0 comments   0 trackback
暗黒物質はとても軽い粒子でできている? 重力レンズ効果から推定

暗黒物質はとても軽い粒子でできている?
図1:暗黒物質による重力レンズ効果の概要。暗黒物質がWIMPのような重い粒子の場合、時空の歪みは単純である (左) 。これに対しアクシオンのような超軽量粒子の場合、時空の歪みは複雑になる (右)

宇宙には恒星の大集団である銀河が無数に存在しています。その多くは回転していますが、銀河が銀河としてこの宇宙に存在している以上、銀河の回転速度は重力で恒星を引き留められる限界の速度以下のはずです

ところが銀河の回転速度を実際に調べてみると、恒星の数をもとに見積もられた銀河の質量から推定される重力では恒星を引き留めることができないほどの高速で回転していることがわかっています。この結果は、光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる「暗黒物質(ダークマター)」の存在を示唆しています。理論上、その量は電磁波で観測できる普通の物質の4倍以上もあることになります。

暗黒物質の正体は現在でも不明ですが、未知の素粒子や、それらの素粒子が結合してできた複合粒子が有力な候補の1つとして長年唱えられています。この場合、暗黒物質は重力の他に弱い相互作用 (※1) という力を通じてのみ検出可能な粒子であると考えられます。弱い相互作用は到達距離が極めて短く、検出は困難です。暗黒物質は私たちのすぐ隣に存在するかもしれませんが、まるで幽霊のような性質を持つために探索の目を逃れ続けていると考えられています。

※1…弱い相互作用: 最も基本的な4つの力のうちの1つであり、物質を構成する基本的な素粒子であるクォークの種類を変更する唯一の力である。その到達距離は1京分の1m以下と極めて短く、原子核内部に収まってしまうほどである。

暗黒物質を構成するのが未知の粒子だとすれば、それはどのような性質を持つのでしょうか?

暗黒物質の存在が疑いようもないと判明した1970年代、それは「WIMP(Weakly interacting massive particles)」と呼ばれるものであると考えられていました。WIMPはかなり重い粒子で、質量は少なくとも陽子の10倍と推定されています。

重い粒子は軽い粒子よりも動かされにくいため、熱などのエネルギーを与えられてもほとんど動きません。このため、WIMP同士は集合して大きな塊を作りやすいことになります。これは、現在の宇宙に暗黒物質が塊で存在するという観測結果と一致する性質です。また、WIMPを構成するであろう未知の粒子の正体は、複数の理論で予言されています。このため、WIMPは暗黒物質の有力候補でした。

ただし、暗黒物質の正体はWIMPであるという予測には「重力レンズ効果」をうまく説明できないという難題がありました。一般相対性理論によれば、重力は時空の歪みだと表現されます。光には空間をまっすぐ進む性質がありますが、時空が歪んでいるとその歪みに沿って進みます。例えば遠方の銀河の像は、それより手前にある重力源によって光の進行方向が曲げられることで、歪んだ像となる場合があります。このような現象は重力レンズ効果と呼ばれています。

重力レンズ効果を受けた銀河の像の歪み度合いから逆算すると、重力源の強さや物質分布を知ることができます。重力レンズ効果は、簡単には観測できない暗黒物質の存在量や分布、そして性質を知るための重要な手がかりとなるわけです。

ところが、暗黒物質がWIMPでできていると仮定した場合、予測される重力レンズ効果と実際の観測結果にズレが生じることが分かりました。WIMPでできた暗黒物質の塊は比較的綺麗な時空の歪みを生じさせるため、歪められた銀河の像も比較的綺麗な形をしているはずです。しかし、実際に観測された像はかなり複雑な形状をしていることが分かりました。このような像は、時空の歪みがかなりデコボコしていなければ説明がつきづらく、暗黒物質の密度にかなりムラがあることを意味しています。WIMPの性質からは、そのような分布は予測しがたいものとなっていました


WIMPのように重い粒子では重力レンズ効果の予測と現実が一致しないことから、暗黒物質の正体は「アクシオン」 (※2) のような「超軽量粒子」だとする予想もあります。超軽量粒子は電子よりもはるかに軽いため、WIMPのようにまとまって塊になりにくいという問題があるものの、波としての性質 (※3) が強く表れるため、互いに干渉しやすいという特徴があります。超軽量粒子の干渉は暗黒物質の塊の中で密度にムラができやすくなることを意味するため、時空の歪みがかなりデコボコしているという観測結果と一致します。このような性質を持つ超軽量粒子はWIMPと並ぶ暗黒物質の有力候補ですが、どちらがより正しそうなのかは未解決の問題でした。また、WIMPと超軽量粒子では重さが文字通り桁違いの差があり、暗黒物質以外の面でも性質が大きく異なるため、背景となる理論の構築にも影響を与えます。この点でも、暗黒物質の正体がWIMPと超軽量粒子のどちらであるかは興味深い疑問です。

※2…アクシオン: 素粒子物理学の基本理論である標準模型では予言されていない素粒子の1つ。電子の1億分の1以下と極めて軽いながら質量があるとされているため、暗黒物質の有力候補として長年探索が行われているが、未発見である。

※3…この宇宙にある物質や力は、常に粒としての性質と波としての性質の両方を持っている。ただし大雑把に言えば、重い粒子であるほど粒としての性質が現れやすく、軽い粒子であるほど波としての性質が現れやすい傾向にある。暗黒物質候補の超軽量粒子は、WIMPと比べてずっと軽いため、波としての性質が現れやすい。

香港大学のAlfred Amruth氏らの研究チームは、重力レンズ効果による銀河の像の歪みをモデル化し、実際の観測結果と照らし合わせる作業を行いました。近年、技術革新によって銀河の像の高精度な撮影ができるようになったため、暗黒物質の細かい分布構造から予測される像の歪みと、実際の写真とを細かく比較できるようになりました。WIMPと超軽量粒子それぞれの理論に従ったモデルを構築し、どちらの方がより実際の写真に近いかどうかを比較検討できるようになったのです


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図2: クエーサーHS 0810+2554の画像。重力レンズ効果によって複数の像に分裂している

研究チームがWIMPと超軽量粒子のそれぞれのモデルを比較検討した結果、「暗黒物質は超軽量粒子でできている」とするモデルの方が、実際の観測成果とよく合致することが示されました。

今回の研究では、2001年に発見されたクエーサー「HS 0810+2554」に対するモデル適用の結果が特に重要でした。HS 0810+2554は重力レンズ効果によって像が4つに分裂していますが、モデルを利用して分裂後の位置や明るさの予測を行ったところ、超軽量粒子のモデルでは全ての像の再現に成功したのに対し、WIMPのモデルではほとんどの場合失敗しました。このため、暗黒物質は超軽量粒子でできているという可能性が高まりました。

暗黒物質は超軽量粒子でできているという予測は、他の研究とも矛盾しません。例えばWIMPは探索開始からほぼ半世紀経った現在でも未発見です。未探索の範囲にある粒子は余りにも大きい質量を持っているため、仮にその領域にWIMPが存在したとしても、暗黒物質としての性質を満たさないと考えられます。

また、超軽量粒子の波としての性質は「衛星銀河」の観測結果とも合致します。天の川銀河の周囲には小さな銀河である衛星銀河が50個ほど発見されていますが、これは標準的な銀河系形成理論による予測と比べて大幅に少ない数です。もしも暗黒物質が超軽量粒子で構成されているとすれば、超軽量粒子の波としての性質が特定の質量よりも軽い銀河の形成を妨げるために比較的大きな衛星銀河しか形成されず、衛星銀河の数の少なさを説明できるのです。

さらに、超軽量粒子は標準模型 (素粒子物理学の基本理論) に含まれない素粒子であると予測されているため、発見そのものが物理学上極めて重要な意味を持ちます。このように、暗黒物質の正体を探る研究は、他の分野の謎の解決にも役立つ可能性があります。

ただし、暗黒物質を構成しているであろう超軽量粒子も未だに発見されておらず、WIMPと比べても探索はさらに困難です。もし見つかれば、ここ数十年の物理学で最大の発見の1つになるでしょうが、今のところその兆候すらありません。暗黒物質の正体判明にはまだまだ時間がかかりそうです


Source
Alfred Amruth, et.al. “Einstein rings modulated by wavelike dark matter from anomalies in gravitationally lensed images”. (Nature Astronomy)

2023年5月12日
sorae より

宇宙背景放射からダークマター分布

Posted by moonrainbow on 12.2023 暗黒物質   0 comments   0 trackback
宇宙背景放射からダークマター分布を調査、「宇宙論の危機」回避なるか

新しいダークマターの分布図
新しいダークマターの分布図
CMBに基づく、新しいダークマターの分布図。オレンジ色はダークマターが多く、紫色はダークマターがほとんど存在しないことを示す。典型的な構造のサイズは数億光年。灰色と白は天文衛星「プランク」が観測した天の川銀河のダストからの光で、CMB観測を妨げている領域を示す(提供:ACT Collaboration)

近年、遠方銀河の観測から求めたダークマターの分布が、標準的な宇宙論と矛盾することが指摘されていた。今回、遠方銀河ではなく宇宙背景放射の観測から分布を調べたところ、矛盾しない結果が得られたことが発表された

宇宙の物質の約85%は正体不明のダークマター(暗黒物質)とされる。ダークマターは質量を持っているものの、光をはじめとする電磁波と相互作用しないため、直接観測することができない。そこで、ダークマターの分布を推測するには、遠方の天体からの光が手前に存在するダークマターの重力によって曲げられることで、天体の像が歪んだり増光したりする「重力レンズ効果」が利用される。

ダークマターの分布からは、銀河同士をつないで網の目状に広がる「宇宙の大規模構造」がどのように成長してきたのかなど、宇宙の成り立ちに迫ることができる。これまでの観測研究では、主に銀河や銀河団の形状を分析することで分布が調べられてきた。

一方、英・ケンブリッジ大学のNiall MacCrannさんたちの研究チームは、ビッグバン直後の熱放射の名残である「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」が重力レンズによって歪んだ度合いを調べることで、ダークマターの分布を求めた。MacCrannさんたちはチリのアタカマ宇宙論望遠鏡(ACT)で2017年から2021年にかけてCMBを観測した結果を解析し、全天の約4分の1をカバーするダークマターの分布図を作成した


アタカマ宇宙論望遠鏡
アタカマ宇宙論望遠鏡(ACT)。中央に電波望遠鏡があり、周囲にある構造物は周囲からのミリ波を防ぐための覆いとして機能している(提供:Mark Devlin)

マイクロ波はCMBだけでなく、私たちの天の川銀河内部や他の銀河など、至るところで放射されている。これら「前景放射」の影響を正確に見積もって取り除かなければ、「背景放射」のデータは得られない。今回は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU) の並河俊弥さんが開発した「バイアスハードニング」と呼ばれる手法により、CMBデータに含まれる前景放射成分が効果的に取り除かれた。

こうして作成したダークマターの分布図から宇宙の大規模構造の成長過程や最近の宇宙の膨張速度を見積もったところ、一般相対性理論に基づく宇宙の標準理論(標準宇宙論)の予言値と一致する結果が得られた。

最近では、ダークマターの分布が標準宇宙論と矛盾するという研究もあり、一部では「宇宙論の危機」とまで呼ばれていた。だが、CMBの観測から得られた今回の結果は、標準宇宙論が宇宙の進化の過程や膨張速度を上手く記述できていることを示している。MacCrannさんたちは、ダークマターを調べるために銀河や銀河団の光を用いたことが「宇宙論の危機」の原因ではないかと指摘しており、今後それぞれのアプローチからの研究が進展することが期待される


2023年5月9日
AstroArtsより

「ダークマター」の画期的マップ

Posted by moonrainbow on 20.2023 暗黒物質   0 comments   0 trackback
アインシュタインの正しさを証明する「ダークマター」の画期的マップ

アダークマター」の画期的マップ
アインシュタインの正しさを証明する「ダークマター」の画期的マップ
ACT COLLABORATION

チリにある望遠鏡を使う科学者チームが、夜空の25%に含まれる「ダークマター」の画期的なマップを作成した。これはアルバート・アインシュタインの一般相対性理論を裏づけているものだとチームは述べている

ダークマターは目に見えないが(光もエネルギーも放出していないため、望遠鏡では検出できない)、チームはチリのアタカマ宇宙論望遠鏡(ACT)を使って、数億光年をカバーする上記のマップを作った。

オレンジ色の領域は質量密度の高い部分、紫色は質量密度の低い部分を表している。白は天の川銀河のちりに光が反射している部分で「黄道光」と呼ばれている


■「ダークマター」とは何か?

ダークマターは、目に見えない、光やエネルギーを吸収も反射も放射もしない粒子で構成されているため、直接検出することはできないとNASAは説明している。そのため仮説的なものであるが、その存在は他の物質に対する影響から推論できる。ダークマターは宇宙の物質の約85%を占め、重力のみと相互作用すると考えられている

■新たな「ダークマター」マップの作成方法

驚くことに、宇宙で最初の光の残骸(宇宙マイクロ波背景放射、CMB)をバックライトとして使用している。CMBは、130億年前のビッグバンによる衝撃波だと考えられている。ここでは、私たちとビッグバンの間のあらゆる物のシルエットを作るために使われている。

「少し影絵に似ていますが、シルエットは黒いだけではなく、ダークマターの質感や凹凸も表しています。まるで結び目や凹凸のある布のカーテンを光が通過したようです」とACTのディレクターであるスザーン・スタッグスとプリンストン大学のヘンリー・デウルフ・スミス物理学教授はいう。「有名な青と黄色のCMB画像は、約130億年前の1つのエポックにおける宇宙の状態を表すスナップショットのようなものです。この新しいマップは、それ以降すべてのエポックの情報を与えてくれます」


■アインシュタインの「一般相対性理論」とは何か

空間には高さ、長さ、幅および時間という4つの次元がある。相対性理論は、そこに質量が加わったら何が起きるかを説明している。1915年に発表されたアインシュタインの一般相対性理論は、トランポリンの上にボウリングの玉が載っているところを思い浮かべると一番理解しやすい。トランポリンがボールに沿って曲がるのと同じように、質量が時空を曲げる。光はまっすぐ進むが、時空が質量によって曲げられるため、私たちの目には曲がって見える。この大胆な説は1919年5月29日の日食の際に撮影された恒星の正確な位置の写真によって証明された

「私たちは、ビッグバンの名残りである光の歪みを使って新しいマップを作りました」とペンシルベニア大学物理学・天文学部のマシュー・マダヴァチェリル准教授はいう。「すばらしいことに、このマップ測定値は宇宙の『でこぼこ』さと140億年の進化の後の成長速度のいずれもにおいても、アインシュタインの相対性理論に基づく宇宙論の標準モデルから予測されるものと一致しています」

■宇宙論の「危機」

一部の科学者は、宇宙論の標準モデル(アインシュタインの一般相対性理論に基づいて構築されている)は破綻しているかもしれないと考えている。その鍵となる証拠は、CMBではなく恒星から届く背景光が、ダークマターの異なる測定値をもたらすことだ。しかし、この推論されたダークマターの新しいマップは、標準モデルと完璧に一致している。「初めてこれを見たとき、測定結果が基礎となる理論とあまりにもよく一致していたので、結果を処理するまでに少し時間がかかりました」とケンブリッジ大学の博士課程大学院生で研究チームの一員であるフランク・チューはいう。

「私たちは空を横切る目に見えないダークマターを最大の距離までマッピングし、何億光年にも広がるこの見えない世界の特性をはっきりと見られるようにしました」とケンブリッジ大学でACTの研究グループを率いる宇宙論教授のブレーク・シャーウィンはいう。「それはまさに私たちの理論が予言したとおりに見えます」


■アタカマ宇宙論望遠鏡

2003年に初めて提案されたこの実験は、アタカマ宇宙論望遠鏡を使って15年間続けられたが、同望遠鏡は2022年9月に廃止された。しかし2024年には、ダークマターを約10倍速くマッピングできる新しい望遠鏡が完成する予定だ。

本研究は日本の京都大学基礎物理学研究所で行われた「Future Science with CMB x LSS」カンファレンスで4月10日に発表された


2023年4月14日
Forbes JAPANより
 

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