それは:
◆“仮想”粒子で満たされた真空 量子真空とは、物理的概念での真空状態のことです。決して「何もない」状態ではなく、仮想粒子と反仮想粒子が活発に対生成と対消滅を繰り返しています。
反物質粒子は、物質粒子とは対照的な存在です。例えば反陽子は、原子の基本要素である陽子の逆の電荷(負の電荷)を持っています。
物質と反物質が衝突すると、瞬間的にエネルギーを発して対消滅を起こします。量子真空状態で自発的に生成される仮想粒子は高速で現れては消えるため、直接は観測できません。
新しい数学モデルを用いて、仮想物質と反仮想物質が重力的にも逆の性質だとしたら何が起こるのかを研究していますが、その発想自体は他の研究者も以前から提案しています。
現在主流の物理学では重力荷は1つというのが常識ですが、2つと考えられるかも知れません。
物質は正の重力荷を持ち、反物質は負の重力荷を持ちます。物質と反物質は重力的に反発するため、反物質の物体は物質で構成される地球の重力場で「落ちる」ことはないのです。
ただし重力的反発は電気的引力と比べてはるかに弱いため、粒子と反粒子の衝突は起こり得ます。
◆銀河の重力が増大する仕組み 「反重力粒子」という発想には特異な印象を受けますが、理論は量子物理学の定説に基づいています。
例えば、2つの粒子が団結して作り出す「電気双極子」は以前から知られています。正電荷を持つ粒子と負電荷を持つ粒子が微小な距離だけ離れて存在する状態です。
理論上、量子真空の空間には仮想粒子が作り出した電気双極子が無数に存在します。
すべての電気双極子はランダムに配向されていますが、電場が存在する環境で形成されると、すぐに電場の方向に沿って一直線に並ぶのです。
場の量子論では、この電気双極子の唐突な整列(分極化)により、第2の電場が生まれて既存の電場と結合し、全体として強度が増大するとされています。
重力でも同様の現象が起きると提唱しています。仮想物質と反仮想物質の粒子が異なる重力荷を持つ場合、ランダムに配向された重力双極子が空間に生成されるというのです。
強力な重力場を持つ大質量の天体である“銀河”の近くで重力双極子が生成された場合、やはり分極化が起こるはずです。
そして第2の重力場が生まれて銀河の重力場と結合し、重力が増大するに違いないのです。
この理論なら暗黒物質がなくても銀河の重力場は強くなります。
◆暗黒物質の証拠は“揺るがない” しかし、非常に興味深い新説ですが、現在は暗黒物質存在の証拠は揺るがないのです。
例えば2006年には、暗黒物質が存在する証拠とされる弾丸銀河団の画像が公開されました。2つの銀河が衝突した衝撃で、暗黒物質と可視物質が分離する様子が写し出されています。
2011年の初夏にもパンドラ銀河団で同様の現象が観測されました。
この研究の概要は、「Astrophysics and Space Science」誌8月号に掲載されています。
Image courtesy STScI, U. Arizona, CfA, CXC, NASA
National Geographic Newsより
September 1, 2011