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原始銀河団A2744-z7p9OD

Posted by moonrainbow on 03.2023 銀河団   0 comments   0 trackback
JWSTとアルマ望遠鏡のタッグで、最遠方の原始銀河団をキャッチ

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コア領域の想像図と将来の姿
(左)原始銀河団A2744-z7p9ODのコア領域の想像図。(右)数千万年後のコア領域の想像図。複数の銀河が合体してできた大きな銀河が見られる(提供:国立天文台)

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡が131億光年彼方の原始銀河団を観測し、銀河が密集したコア領域で急速に銀河が成長する兆候がとらえられた。シミュレーションでは数千万年以内に銀河が合体し大きな銀河となることも示された

地球に比較的近い銀河の観測から、銀河同士が密集した環境のほうが、個々の星の誕生と死のサイクルが急速に進むことが知られている。この「環境効果」が宇宙の歴史のいつごろから存在したのかは、よくわかっていない。それを知るには、宇宙が誕生して間もないころに存在した銀河の集団「原始銀河団」を観測する必要がある。

近傍の銀河団には100個程度以上の銀河が含まれるが、100億光年以上彼方に存在する原始銀河団では10個程度の銀河が集まっている。遠方にある天体はそれだけ昔の宇宙を観測していることになるので、遠い原始銀河団を観測すれば宇宙が若いころの様子を知る手がかりが得られる。ただし、遠い天体からの光や電波の観測には、高い感度と空間分解能が求められる。

筑波大学の橋本拓也さんとスペイン宇宙生物学センターのJavier Álvarez-Márquezさんたちの研究チームは、高い感度と空間分解能を持つジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡を用いて、ちょうこくしつ座の方向に存在する原始銀河団「A2744-z7p9OD」を観測した。注目したのは、原始銀河団の中で銀河がとくに密集している「コア領域」だ。

橋本さんたちはまずJWSTの赤外線分光器「NIRSpec」でスペクトル観測を行い、その結果からコア領域に存在する銀河の赤方偏移を7.88と測定した。最新の宇宙論パラメーターで計算すると、距離は131.4億光年となる。

次にアルマ望遠鏡で観測したデータを解析したところ、複数の銀河から塵の出す電波が検出された。これほど遠方に位置する原始銀河団としては、塵が検出された初の例である。塵は銀河を構成する重い星々が終末期に起こす超新星爆発で供給され、新しい星の材料になると考えられている。この領域で多量の塵が検出されたことは、銀河内の第1世代の星の多くがすでに一生を終えており、銀河の成長が進んでいることを示唆するものだ


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電離酸素が放つ光の分布と塵が放つ電波の分布
(背景)JWSTの観測による、原始銀河団A2744-z7p9OD中のコア領域に存在する光の強度。(左)NIRSpecによる、電離酸素が放つ光の分布を等高線で表示。4つの銀河の存在が見える。(右)アルマ望遠鏡による、塵の放つ電波の分布を等高線で表示。4つ中3つの銀河に塵の放射が認められる(提供:JWST (NASA, ESA, CSA), ALMA (ESO/NOAJ/NRAO), T. Hashimoto et al.)

「同じ原始銀河団のうち、コア領域以外の密集していない銀河では、塵は検出されませんでした。これは、多くの銀河が狭い領域に集まることで銀河の成長が急速に進んでいることを示しており、138億年前の宇宙誕生からわずか7億年余りの時代に環境効果が存在していたと考えられます」(スペイン宇宙生物学センター Luis Colinaさん)。

研究チームはさらに、コア領域に密集した4つ銀河の形成と進化について、銀河形成のシミュレーションを行って理論的に検証した。すると、A2744-z7p9ODと同様に、宇宙誕生から約6.8億年後にガスの粒子が密集した領域が現れ、狭い領域に密集した4つの銀河が形成された。また、数千万年程度と比較的短い時間で銀河が合体し、より大きな銀河に進化することも示された


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シミュレーションによるA2744-z7p9ODの成長予想。(a)宇宙年齢6.89億年における、A2744-z7p9ODに似た領域のガスの密度の様子。(b)は(a)のコア領域の拡大図。JWSTで観測された領域に相当する。濃淡は酸素イオンの光の分布を示す。(b)から(d)では、時間経過に伴って銀河が合体を繰り返し、より大きな天体へと進化する様子を表す(提供:T. Hashimoto et al.)

「今回、非常に強力であることが証明されたJWSTとアルマ望遠鏡のタッグによる観測を、今後より多くの原始銀河団に適用して、銀河の成長メカニズムを明らかにして、宇宙におけるわたしたちのルーツに迫ります」(Álvarez-Márquezさん)

2023年9月27日
AstroArtsより

銀河団「ACT-CL J0102-4915」

Posted by moonrainbow on 14.2023 銀河団   0 comments   0 trackback
重力レンズ効果で像がゆがんだ銀河の数々 ウェッブ宇宙望遠鏡が観測

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ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された銀河団「エル・ゴロド」

こちらは「ほうおう座」(鳳凰座)の方向約76億光年先の銀河団「ACT-CL J0102-4915」を捉えた画像です。銀河団全体の質量は実に太陽の約2100兆倍と推定されています。宇宙誕生から60億年ほどが経った当時の宇宙で存在が知られている銀河団のなかでは最も大規模であることから、ACT-CL J0102-4915は「El Gordo」(エル・ゴロド、スペイン語で「太った人」を意味する)と命名されています

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で2022年7月29日に取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています(※)。

※…この画像では1.15μmと1.5μmを青、2.0μmと2.77μmを緑、3.56μmと4.44μmを赤で着色しています。

エル・ゴロド銀河団はかつて「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」でも観測されたことがありますが、アメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、ハッブル宇宙望遠鏡の観測ではうっすらとしか見えていなかった歪んだ像の銀河をウェッブ宇宙望遠鏡は幾つも捉えることに成功しました。

次に掲載する画像では、そのなかでも特徴的な2つの銀河がピックアップされています。STScIによると、Aの四角で示されている細長く伸びた像の銀河はスペイン語で「La Flaca」(ラ・フラカ、やせた人)と呼ばれており、光が地球に届くまでに約110億年を要しました。Bの四角で示されているフック状の像をした銀河はスペイン語で「El Anzuelo」(エル・アンスエロ、釣り針)と呼ばれていて、光が地球に届くまでに約106億年を要したとい

銀河の像を歪ませているのは「重力レンズ」効果です。重力レンズとは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球からは像が歪んだり拡大して見えたりする現象のこと。重力レンズは遠方の天体を観測するための“天然の望遠鏡”として利用できますし、その強さを分析することで、未知の暗黒物質(ダークマター)の銀河団における分布を知ることも可能です。

エル・ゴロド銀河団の膨大な質量による重力レンズ効果とウェッブ宇宙望遠鏡の組み合わせは新たな科学的成果をもたらしました。たとえば、エル・アンスエロの像が受けている重力レンズ効果をアリゾナ州立大学のPatrick Kamieneskiさんを筆頭とする研究チームが補正したところ、この銀河は直径2万6000光年の円盤状の銀河であり、その中心部では星形成が急速に弱まる「クエンチング(quenching)」と呼ばれるプロセスが確認されたといいます。Kamieneskiさんたちの研究成果をまとめた論文はthe Astrophysical Journalに受理されており、現在arXivでプレプリントが公開されています。

また、カンタブリア物理学研究所のJose Diegoさんを筆頭とする研究チームがラ・フラカとは別の細長く伸びた像の銀河(冒頭の画像で左下隅付近に見えている)を分析したところ、単一の赤色超巨星とみられる天体が検出されました。この天体は宇宙論的距離で初めて検出された単一の赤色超巨星の可能性があるということです。Diegoさんたちの研究成果をまとめた論文はAstronomy & Astrophysicsに掲載されています。

冒頭の画像はウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡を運用するSTScIをはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)から2023年8月2日付で公開されています


※記事中の距離は天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています

Source
Image Credit: NASA, ESA, CSA, J. Diego (Instituto de Física de Cantabria), B. Frye (University of Arizona), P. Kamieneski (Arizona State University), T. Carleton (Arizona State University), R. Windhorst (Arizona State University), A. Pagan (STScI), J. Summers (Arizona State University), J. D’Silva (University of Western Australia), A. Koekemoer (STScI), A. Robotham (University of Western Australia)
STScI - Webb Spotlights Gravitational Arcs in 'El Gordo' Galaxy Cluster
NASA - Webb Spotlights Gravitational Arcs in ‘El Gordo’ Galaxy Cluster
ESA/Webb - Webb spotlights gravitational arcs in ‘El Gordo’ galaxy cluster (NIRCam image)

2023年8月10日

sorae 宇宙へのポータルサイトより

銀河団MACS J1149.5+2223

Posted by moonrainbow on 25.2023 銀河団   0 comments   0 trackback
時間差で現れた超新星の重力レンズ像でハッブル定数を測定

しし座の銀河団MACS
銀河団MACS J1149.5+2223と、2015年12月に出現した5番目の像
しし座の銀河団MACS J1149.5+2223。左(2014年)と右上(2015年10月)では丸の中に5番目の像は写っておらず、右下(2015年12月)には写っている。左の矢印の位置は2014年に現れた4つの像(提供:NASA, ESA, and P. Kelly (University of California, Berkeley); Acknowledgment: NASA, ESA, and S. Rodney (University of South Carolina) and the FrontierSN team; T. Treu (UCLA), P. Kelly (UC Berkeley) and the GLASS team; J. Lotz (STScI) and the Frontier Fields team; M. Postman (STScI) and the CLASH team; and Z. Levay (STScI)、左図の矢印はアストロアーツによる)

約1年の時間差で複数現れた超新星の重力レンズ像が、ハッブル定数の測定に初めて適用された。従来の測定手法2つのうち、宇宙背景放射から推定されたものに近い値が得られている

現在の宇宙の膨張速度を表す「ハッブル定数」は、遠方の天体までの距離や宇宙の年齢を決める、最も重要な宇宙論パラメーターだ。ところが、異なる手法で測定すると、定数であるにもかかわらず値が異なっている。誕生直後の宇宙に存在した熱放射の名残である「宇宙背景放射」の測定からは、約67km/s/Mpcという値、近傍銀河までの直接的な距離測定からは、約74km/s/Mpcという値だ。宇宙の標準理論が正しければ値は一致するはずなので、この違いは理論の綻びを示唆している可能性があるという。

ハッブル定数の別の測定方法として、超新星爆発の像が重力レンズ効果によって時間差で複数出現することを利用するという手法が、1964年にSjur Refsdalさんによって提唱されていた。重力レンズ効果を受けると1つの超新星の光が複数の異なる経路を通ってくるため、像が時間差で見られることがある。到達時間差は宇宙の大きさ、すなわちハッブル定数に依存するので、時間差の観測からハッブル定数が測定できるのだ。

2014年、米・カリフォルニア大学バークレー校のPatrick Kellyさん(現ミネソタ大学)たちの研究チームが、55億光年先の銀河団「MACS J1149.5+2223」の方向に、95億光年彼方で発生した1つの超新星爆発が1か月ほどの間に4つの像として出現した例を観測した(参照:「初めて観測、重力レンズによる超新星の多重像」)。時間差で現れた複数像の初めての観測例だ。


当時より、この超新星「レフスダール」には5番目の像が出現するだろうと予測されていたが、その時期は半年後から数年後まで大きなばらつきがあった。実際には5番目の像が観測されたのは1年後の2015年12月だ。

Kellyさんたちは、この出現時間差や、出現後の明るさ変化を説明するようなモデルを構築し、そこからハッブル定数の値を約64.8km/s/Mpcと求めた。50年以上前にRefsdalさんが提唱した手法でハッブル定数が測定された初の事例だ。従来の2つの手法のうち、宇宙背景放射の測定から得られている小さいほうの値を支持する結果である。

今回の手法では、多くの超新星の重力レンズ像を時間差をおいて観測することが不可欠だ。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の銀河団観測や、観測準備中のベラ・ルービン天文台の広天域モニター観測などにより発見例が増えれば、ハッブル定数の値に関する理解が進むと期待される


2023年5月18日
AstroArtsより

最大級のモンスター超銀河団を発見

Posted by moonrainbow on 28.2023 銀河団   0 comments   0 trackback
55 億光年先の宇宙で最大級のモンスター超銀河団を発見

超銀河団領域の3色合成画像
55 億光年先の宇宙で最大級のモンスター超銀河団を発見 図
図1:すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラが捉えた超銀河団領域の3色合成画像。中央画像の等高線は銀河の密度分布を、淡赤色はダークマターが広範囲に渡ってとりわけ強く密集する領域を示しています。番号が付記された四角は超銀河団に付随する銀河団の位置を示しています。周囲のパネルは、これら 19 個の銀河団の拡大図で、銀河団でよく見られる、赤い銀河が群れ集まる様子が捉えられています。左上の満月は、超銀河団の領域と比較した場合の、満月の見かけの大きさを表しています。(クレジット:国立天文台)

国立天文台と広島大学を中心とした研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラを用いた大規模観測から、約 55 億光年先の宇宙において、巨大な超銀河団を発見しました。およそ満月 15 個分の天域にまたがって銀河とダークマターが強く密集しているだけでなく、少なくとも 19 個の銀河団が付随しており、50 億光年以遠の宇宙で確認された中では最大の超銀河団です

無数の星やガスの集合からなる銀河、さらにその集合体で成り立つ銀河団は宇宙最大の自己重力系として知られています。しかし宇宙にはこの銀河団がさらに集まってできた超銀河団という巨大構造が存在します。超銀河団は約 100 メガパーセク(天の川銀河の約 500 倍)に渡って広がっている一方、定義そのものもまだ曖昧で、その正体や内部で何が起こっているかなど、多くの謎に包まれています。実のところ、天の川銀河もおとめ座超銀河団と呼ばれる超銀河団の内部に位置しており、さらに周辺の複数の銀河団と超銀河団とともに、より大きなラニアケア超銀河団を構築しています(注1)。したがって、超銀河団は私たちの住む近傍宇宙の成り立ちを明らかにする上で非常に重要な研究対象といえるでしょう。

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム, HSC)を用いた大規模探査(すばる戦略枠プログラム)は満月の見かけの大きさの約 4400 倍に相当する広範囲を 100 億光年以遠のかなたまで観測することに成功しています。当プログラムから得られる高品質な画像データは、未知の超銀河団を探すのに現時点で最適のリソースです。

今回、研究チームは過去に同チームによって発見された 100 天体近くの超銀河団候補(注2)の中から、密度超過を示す範囲が最も広い天体に対して星の総質量とダークマターの分布を調べました(注3)。その結果、3つのダークマター密集領域を中心に、少なくとも 19 の銀河団で構成された超銀河団構造を検出しました(図1)。

宇宙論的シミュレーションとの比較から、この超銀河団は太陽質量の 10 の 16 乗倍のダークマター質量を持っていることが示唆されました。これはおとめ座超銀河団のおよそ 10 倍に匹敵します。さらに、その直ぐ外側にも超銀河団相当の巨大構造が2つ確認されており、近傍宇宙最大のラニアケア超銀河団のような超巨大構造の前身である可能性があります。

本研究の主著者である嶋川里澄特任助教(国立天文台ハワイ観測所)は「実のところ今回ターゲットにした約 55 億光年先の宇宙で、すばる望遠鏡の戦略枠プログラムによる探査データからこのような超銀河団が見つかる確率は五分五分でした。今後は近く稼働予定のすばる望遠鏡の超広視野多天体分光器 PFS や、ユークリッド宇宙望遠鏡を使って、3次元構造や内部の銀河形態などに迫っていきたいと思っています」と語ります。

本研究成果は英国の王立天文学会誌に 2022年11月26日付で掲載されました(Shimakawa et al. "King Ghidorah Supercluster: Mapping the light and dark matter in a new supercluster at z = 0.55 using the subaru hyper suprime-cam")。

注1:我々の住む天の川銀河はおとめ座超銀河団の内部、およびその中核を成すおとめ座銀河団の外れに位置していることが知られています。超銀河団の定義自体が曖昧である現状も相まって、超銀河団をさらに包み込む巨大構造も超銀河団と呼ばれるケースがあります(天文学辞典)。

注2:"Subaru Hyper Suprime-Cam excavates colossal over- and underdense structures over 360 deg2 out to z = 1", Shimakawa et al, 2021, MNRAS

注3:ダークマターの分布は、弱重力レンズ効果を利用して求めました。弱重力レンズ効果は、遠方の銀河から放たれた光が、手前にある銀河団など強い重力場をもつ領域を通過する際に光路が曲げられることで、遠方銀河がゆがんだり増光されて見える現象(重力レンズ効果)のうち、その程度が比較的小さい場合を指します(天文学辞典)。本研究で発見された超銀河団は、50 億光年以遠の宇宙で、これまでに弱重力レンズ解析によって確認された中では最大の構造です


2023年1月19日 (ハワイ現地時間)
すばる望遠鏡より

銀河団の中に散らばっている孤立した星々

Posted by moonrainbow on 21.2023 銀河団   0 comments   0 trackback
「迷子星」の光から銀河団の歴史をさぐる

大質量銀河団「MOO J1014_0038」
銀河団の銀河間光
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた大質量銀河団「MOO J1014+0038」(左)と「SPT-CL J2106-5844」(右)。3つの波長の近赤外線画像から擬似カラー合成した画像に、銀河間光の成分を青色で重ねている。画像クリックで拡大表示(提供:NASA、ESA、STScI、James Jee(延世大学); 画像処理: Joseph DePasquale (STScI))

ハッブル宇宙望遠鏡の観測から、銀河団の中に散らばっている孤立した星々が数十億年前からすでに存在していたことが示された

数百から数千個の銀河が集まった「銀河団」の内部には、どの銀河とも重力的に結び付いていない迷子のような星がたくさん存在する。銀河団全体を眺めると、これらの星々が「銀河間光(intracluster light; ICL)」という淡く広がった光を放っている。

これらの孤立した星々がいつ、どのようにして銀河団の中に散らばったのかについては、「銀河団の中を銀河が運動することで星々がはぎ取られる」「銀河の衝突合体で星々が放出される」「銀河団が形成された数十億年前にはすでに存在していた」など、いくつかの説があって決着がついていない。

韓国・延世大学校のHyungjin Jooさんたちの研究チームはハッブル宇宙望遠鏡を使って、赤方偏移zがおよそ1から2(80億~100億光年)までの距離にある10個の銀河団を近赤外線で観測した。

その結果、銀河間光が銀河団全体の明るさに占める割合は、過去数十億年にわたってほぼ一定であることが明らかになった。これはつまり、銀河間光の光源である迷子の星々が数十億年前からすでに銀河団の中に存在していることを示している


一般に、銀河団のメンバー銀河が銀河団の内部を運動すると、銀河団ガスの抗力を受けて銀河内のガスや塵が銀河から失われ、銀河の星々も銀河外に散乱すると考えられる。しかし、今回のJooさんたちの観測結果から、このような比較的新しい時代に起こる力学的な作用は、迷子星ができる主な原因ではないらしいことがわかった。もしこうしたメカニズムが原因なら、銀河間光の明るさ(=迷子星の数)は時代とともに増していくはずだからだ。

銀河間光を作り出している星々が迷子になった原因はまだ正確にはわからないが、今回の観測結果から、宇宙の初期段階にはすでに、何らかの原因で大量の迷子星が銀河団の中に存在したことになる。「銀河団が形成された初期の時代には、銀河はまだかなり小さくて重力が弱かったために、簡単に星が銀河外へ流出できたのかもしれません」(延世大学校 James Jeeさん)。

もし迷子星が宇宙の初期に生まれたのであれば、こうした星々は長い時間をかけてすでに銀河団のすみずみまで広く散らばっていることになる。だとすると、銀河や銀河団を重力でまとめている「暗黒物質」の分布を探るために、迷子星を利用できるかもしれない。銀河団内の暗黒物質の分布は、現在は背景銀河の像が銀河団の重力レンズ効果で歪む様子をたくさん調べることで推定しているが、銀河間光を使うことで従来の手法を補える可能性がある。近赤外線で高い感度を持つジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡で迷子星を観測して銀河団全体の暗黒物質の分布を調べられるようになれば、銀河団の歴史を理解するのに大いに役立つだろう


2023年1月13日
AstroArtsより
 

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