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白色矮星「[HP99] 159」

Posted by moonrainbow on 27.2023 白色矮星   0 comments   0 trackback
白色矮星「[HP99] 159」のヘリウム燃焼を観測 Ia型超新星の謎の一部を説明する発見?

白色矮星「[HP99] 159」
[HP99] 159は、伴星である恒星から流入したガスがX線を放出している。今回のスペクトル分析では、そのほとんどがヘリウムで構成されていることが分かり、ほぼ純粋なヘリウム燃焼が起きていることが分かった

太陽くらいの軽い恒星は、核融合反応が停止した後、外層からガスや塵を放出して、硬い芯を残します。「白色矮星」と呼ばれるこの硬い芯(コア、中心核)は、通常は核融合反応をしないため、ゆっくりと冷えていきます

しかし、白色矮星が伴星として通常の恒星を引き連れている場合は話が異なります。白色矮星は強い重力で伴星の表面物質を剥ぎ取り、表面に堆積させることがあります。その量が限界を超えると、白色矮星で一瞬だけ核融合反応が発生し、膨大なエネルギーが放出されます。この爆発的なエネルギー放出は「Ia型超新星」と呼ばれます。

Ia型超新星にはエネルギーの放出量、つまり爆発の明るさが一定であるという特徴があります。これは、核融合反応が点火するきっかけとなる白色矮星の限界質量(太陽の約1.4倍)が一定であるためです。Ia型超新星の見た目の明るさは地球にいる観察者からIa型超新星までの距離によって決まるので、Ia型超新星が起きた銀河までの距離を決定する指標となります。

ただし、Ia型超新星の発生メカニズムは完全には理解されていません。白色矮星が爆発すると、爆風を受けた伴星からも表面の物質は剥がれるはずです。このため、爆発時に剥がれた水素の存在を示すスペクトル線が現れてもいいはずですが、未だにそのような観測結果は得られていません。

この矛盾を説明する仮説の1つに、爆発直前の伴星表面に存在するのは水素ではなくヘリウムであるとする説があります。実際に、高度に進化した恒星の一部では表面に水素がほとんどなく、ヘリウムが豊富に存在するタイプが見つかっています。このような伴星の表面から爆発時に剥ぎ取られるヘリウムの量は、伴星の質量の2%から5%というかなりの量であるため、観測するのに十分な量であるはずです。しかし、ヘリウムも水素と同様に、爆発時に伴星から剥ぎ取られたことを示す証拠は見つかっていません。

マックス・プランク地球外物理学研究所のJ. Greiner氏らの研究チームは、この疑問の部分的な答えを得る発見をしました。それは超軟X線源(※1)「[HP99] 159」の観測結果によるものです。天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)である大マゼラン雲に存在する[HP99] 159は、X線の観測結果から白色矮星であることが分かっています。

※1…X線の中でもエネルギーが極めて低いものを超軟X線と呼びます。

今回、南アフリカ大型望遠鏡(Southern African Large Telescope)での観測により、[HP99] 159の周りにある降着円盤に由来するスペクトル線が見つかりました。
興味深いことに、[HP99] 159のスペクトル線にはヘリウムと窒素しか検出されず、水素など他の元素は見つかりませんでした。窒素の量はヘリウムよりもずっと少ないため、降着円盤は実質的に純粋なヘリウムでできていることが示唆されます。検出されているX線のエネルギーも、ヘリウムの継続的な燃焼で放出されるものと一致しています。

このため、今回観測されたスペクトル線は、白色矮星である[HP99] 159で起こっているヘリウムの燃焼 (核融合反応) がその源である可能性を示しています。なお、ヘリウム以外に見つかった唯一の元素である窒素は、ヘリウムの層が剥き出しになる段階まで進化した恒星で合成される元素と一致します (※2) 。このことから、[HP99] 159の降着円盤の源は、ヘリウムの層が剥き出しになった恒星であることが分かります。

※2…太陽より重い恒星では、CNOサイクルと呼ばれる炭素・窒素・酸素の合成が循環するサイクル反応が発生する。窒素はCNOサイクルで生成される主要な元素の1つである。

なお、[HP99] 159に対するヘリウムの降着速度はかなり遅いと推定されているため、Ia型超新星が起こるまで質量が蓄積されるのかどうかは分かっていません。しかし、Ia型超新星より少し弱い爆発現象である「Iax型超新星」ならば発生する可能性があります。

Ia型超新星全体の約30%を占めるIax型超新星は爆発の威力が低いため、伴星から剥ぎ取られる物質の量も少なくなります。このため、Ia型超新星でヘリウムのスペクトル線が見つからないのは、少なくともその一部では観測できないほどわずかなヘリウムしか放出されていないため、と説明することができます。

なお、モデル計算に基づき、[HP99] 159のようにガスの流入量が少ない場合、ヘリウムの燃焼は不安定であると推測されています。その一方で、[HP99] 159の過去50年分の観測データからは、不安定な燃焼に由来するX線強度の極端な変化は観測されていません。この矛盾については、[HP99] 159が高速で自転しているために、ヘリウムの降着が安定化しているからだと推定されています。

いずれにしても、[HP99] 159のようにヘリウムの存在と燃焼が詳しく観測された白色矮星はほとんどありません。Greiner氏らは、[HP99] 159のように安定したヘリウム燃焼をしている白色矮星は天の川銀河に30個ほど存在し、大マゼラン雲にも数個存在すると推測しています。追加の観測で[HP99] 159のような白色矮星が発見されれば、さらに多くのことが分かるようになるかもしれません


2023年4月20日
soraeより

単独の白色矮星の質量

Posted by moonrainbow on 16.2023 白色矮星   0 comments   0 trackback
単独の白色矮星の質量を初めて測定

LAWD 37
重力マイクロレンズ効果
LAWD 37が噴出重力マイクロレンズ効果の概念図。手前の白色矮星の重力によって時空が歪められ、背景にある遠方の星から届く光の進路が曲げられ、実際の位置からずれて見える(提供:NASA 、ESA、アン・フィールド (STScI))

白色矮星が遠くの星の手前を通過する際に「重力マイクロレンズ現象」を利用して、連星でない白色矮星の質量が初めて直接測定された

白色矮星は太陽のような比較的軽い星が一生を終えた姿だ。支えている。 というか極限状態の天体の内部については今も謎が多い。

白色矮星の性質を理解するにはその質量を知ることが重要だが、恒星の正確な質量は2つの星が連星になっている場合にしかわからない。数百~数千年と長いと、公転運動のごく一部しか観測できないため、精度よく大量を求めるのは難しい。

はえ座にある「LAWD 37」は地球から15光年と比較的近く、スペクトルなど多くの観測データが得られている白色矮星の一つだが、連星ではないためにその量はわかっていなかったた。

米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校のPeter McGillさんたちの研究チームは、LAWD 37が星の手前を通過するときに、LAWD 37の重力によって背景の星の見かけの位置がわずかに変化する「重力マイクロ「レンズ効果」をハッブル宇宙望遠鏡(HST)で数年連続観測した。「レンズ」となる天体が重いほど背景の星の位置ずれも大きくなったので、このずれの様子を精密に測定することでLAWD 37の重量を計算できる。

観測の結果、LAWD 37の質量は太陽の0.56倍であることが分かった。これは理論的に予測されている白色矮星の質量ともよく一致している。

「このような現象はまれで、星の位置ずれの大きさも微々たるものです。例えば、私たちが測定したずれの大きさは、月面に置いた自動車の長さを地球から測るようなものです今回、LAWD 37の重量を正確に測定できたことで、白色矮星の重量と半径の関係を確認でき、死を迎えた星の内部という極限状態にある縮退物質の理論を検証できます」 (マギルさん)。

研究チームの境界である宇宙境界科学研究所(STScI)のKailash Sahuさんは、2017年には別の白色矮星「Stein 2051 B」による重力マイクロレンズ効果を検出しているが、この白色矮星は連星だった(参考:「重力レンズ現象で計測された白色矮星の質量」)。今回の観測は、単独の白色矮星の質量が重力マイクロレンズ効果で初めて直接測定された例となる。は完全に単独の星であり、この観測は白色矮星の質量測定にとって新たな基準となります」(Sahuさん)


ハッブル宇宙ステーションで撮影
背景の星の前を通過するLAWD 37
()ハッブル宇宙ステーションで撮影したLAWD 37。表面温度が約10万度と高温のため、青白い輝きを放っている。(右)2019年5月から2020年9月にかけて、左背景の星の手前をLAWD 37が通過する様子を連続撮影したもの。青い曲線は背景の星を基準としたLAWD 37の位置の変化を示す。年周視差によって波形の軌道を描いている。画像クリックで拡大表示(提供:NASA、ESA、Peter McGill (UC Santa Cruz、IoA)、Kailash Sahu (STScI); 画像処理:Joseph DePasquale (STScI))

今回、研究チームはヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」のデータによって、LAWD 37が2019年11月に星の手前を通過することを事前に知ることができました。になったのは、約20億個もの天体の正確な位置と運動が「ガイア」によって得られたおかげだ。

さらに研究チームはジェームズ・ウェッブ宇宙境界を使い、別の白色矮星「LAWD 66」によって星の位置が変化する現象を2022年に観測している。この現象による星の位置ずれは2024年に最大となる決まりで、今後数年かけて観測を続ける予定だ。

「『ガイア』はこの分野の研究を一変させました。ガイアのデータを使って白色矮星の通過現象がいつ起こるかを予測し、後から実際に現象を観測できるのは重力です。効果の観測を続けて、さらに多くの種類の星で質量測定を行いたいと考えています」(McGillさん)


2023年2月10日
AstroArtsより

白色矮星「HD 149499B」

Posted by moonrainbow on 05.2022 白色矮星   0 comments   0 trackback
白色矮星「HD 149499B」の大気中から「セシウム」を初めて検出

白色矮星に重い元素
【▲ 図: 白色矮星に重い元素が存在すること自体も謎ですが、これは白色矮星を周回していた岩石惑星が衝突することによって供給された、と考えられています。しかし、白色矮星の強い重力では短期間しか表面に存在しないはずであり、なぜ長期間存在するのかは謎に包まれています。 (Image Credit: CfA/Mark A. Garlick) 】

太陽のような軽い恒星は、寿命の最期に「白色矮星」というコンパクト天体を残します。白色矮星は直径が地球ほどしかないものの、質量は太陽と同じくらいという、非常に高密度で表面重力の強い天体です。この重力の強さによって、白色矮星の表層部では元素の分離が強く発生します

白色矮星の本体には恒星だった頃の核融合反応で生じた酸素や炭素が存在する一方で、表層部には水素とヘリウムでできた大気が存在すると見られています。軽い元素である水素やヘリウムは白色矮星の最表層部に存在できる一方で、それよりも重い元素は強い重力に引き寄せられ、白色矮星の内部へと入り込んでしまいます。このため、白色矮星の大気を観測すると、原則的には水素とヘリウムしか検出されないはずです。

ところが現実には、高温の白色矮星の大気からは水素とヘリウム以外の重い元素も見つかっています。特に、28番元素の鉄よりも重い元素は十数種類発見されており、2005年に3つの白色矮星からゲルマニウムが見つかって以降は、新しい元素の発見が連続して報告されています


宇宙望遠鏡科学研究所 (STScI) のPierre Chayer氏らの研究チームは、表面温度が約5万℃という高温の白色矮星「HD 149499B」の大気成分を観測しました。その結果、55番元素の「セシウム」を、白色矮星の大気から初めて検出することに成功しました。その存在量はヘリウムとの比率で「-5.45」であると測定されています。これは、「ヘリウムの数万分の1程度の割合でセシウムが存在する」ことを示しています

これまでの観測では、白色矮星の大気で検出された鉄よりも重い元素の量は、恒星の大気と比較して過剰に多いことが知られています。例えば大気からゲルマニウムが検出された白色矮星「Feige 86」では、金と白金が太陽と比較して3倍から1万倍も多く含まれています。今回、セシウムでも同様に過剰な存在量が観測されたことで、白色矮星の大気に重い元素が過剰に存在することは一般的であると考えざるを得ません。

一方で、白色矮星の強い重力は、重い元素を大気から本体へと短期間で沈み込ませてしまい、スペクトル解析では元素の存在が隠されてしまうはずです。重い元素の供給源そのものは、最近になって白色矮星に衝突した岩石惑星 (もしくはその残骸) の可能性があるものの、これらすべての白色矮星でつい最近衝突が起きたというのは、あり得そうもないほどの偶然です。したがって、白色矮星の大気中に重い元素が存在するためには、白色矮星の強い重力に逆らって重い元素を “浮揚” させる力が必要となるはずです


現在、白色矮星で重い元素が見つかる理由の有力な候補は「放射浮揚 (Radiative Levitation)」です。原子は白色矮星のように高温の環境ではイオン化して、イオン化していない (中性の) 時よりも光子 (電磁気力を媒介する素粒子) を吸収しやすくなります。吸収された光子のエネルギーの一部が原子の運動エネルギーに変換されることで、原子が “蹴り上げられ” 、大気中に存在できるようになります。この効果は、特に重い元素であるほど強くなる傾向にあります。また、放射浮揚による光子の吸収効果は波長が短いほど強く働くため、波長の短い光子を多く放出している高温の白色矮星で見られることとも一致します。

放射浮揚は長年に渡る有力候補ではあるものの、その裏付けとなる決定的な証拠や観測結果はまだありません。実際に放射浮揚が起きている場合は極紫外線やX線が吸収されるため、その波長で観測を行えば予測される放射量と比べて大幅に暗く見えるはずであり、今後の観測によって証明される可能性があります


Source

P. Chayer, et.al. “Detection of cesium in the atmosphere of the hot He-rich white dwarf HD 149499B”. (arXiv)

2022-11-28
Soraeより

白色矮星「G238-44」

Posted by moonrainbow on 26.2022 白色矮星   0 comments   0 trackback
恒星の死がもたらす惑星系規模の混乱を白色矮星の観測データから推定

白色矮星「G238-44」
【▲ 白色矮星「G238-44」の想像図(Credit: NASA, ESA, Joseph Olmsted (STScI))】

こちらは「こぐま座」の方向約86光年先にある白色矮星「G238-44」の想像図です。星系の中心で輝くG238-44に向かって、幾つもの小天体が落下していく様子を描いています

白色矮星とは、太陽のように比較的軽い恒星(太陽の8倍以下の質量)が赤色巨星へと進化した後に、ガスを失ってコア(核)だけが残った天体のこと。地球と同じくらいのサイズで太陽の半分~1個分の質量を持つとされる、高密度な天体です。白色矮星は中心部で核融合反応を起こさず余熱で輝くのみなので、「恒星としての死」を迎えた姿とも言えます。

赤色巨星に進化した恒星の外層は大きく膨張し、周囲にガスを放出しながら白色矮星に進化するとみられています。もしもその恒星の周囲に惑星などが存在していた場合、この過程で膨張した恒星に飲み込まれたり、軌道が変化して星に落下したりすると考えられています


■金属を含む岩石天体と氷天体の両方が落下したことを示す初の証拠

2022年6月にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を卒業したTed Johnsonさんを筆頭とする研究チームは、「ハッブル」宇宙望遠鏡などによる観測データをもとに、G238-44の大気における窒素・酸素・マグネシウム・ケイ素・鉄といった元素の存在量を測定しました。その結果、地球や小惑星のように金属を含む岩石天体と、彗星のような氷天体の両方が落下した証拠が得られたといいます。

研究チームによれば、G238-44の大気からは非常に高い存在量の鉄と、予想外に高い存在量の窒素が検出されました。豊富な鉄は地球のような岩石惑星の中心にある金属コアの証拠であり、窒素は氷天体の存在を意味すると研究チームは結論付けています。Johnsonさんは「データに最も適合するのは、水星のような天体由来の物質と、彗星のように氷と塵でできている天体由来の物質が、約2対1の比率で混合しているケースです」と語ります。

白色矮星に落下した天体に由来すると思われる物質が白色矮星の大気から検出されたのは今回が初めてではなく、過去には落下した岩石惑星の組成を推定した研究成果も発表されています。太陽系外惑星の組成を直接調べることはできませんが、白色矮星の大気中に存在する元素を分析することで、かつて存在していた系外惑星の組成を探ることができるのです。

しかし今回の研究では、G238-44には岩石天体だけでなく氷天体も落下したと結論付けられました。2種類の天体が白色矮星に落下した可能性が示されたのは、今回が初めてのことだといいます。研究論文の共著者であるUCLAのBenjamin Zuckerman教授は「この白色矮星(G238-44)で検出された様々な元素の存在量は、岩石質の天体と揮発性物質が豊富な天体の両方に由来しているように見えます。これは何百もの白色矮星に関する研究でも初の事例です」とコメントしています


予想されるG238-44星系の模式図
【▲ 予想されるG238-44星系の模式図(日本語表記は筆者が追加)。白色矮星の周囲には破壊された天体でできた降着円盤が形成されている。星から離れた領域では巨大ガス惑星が生き延びているかもしれない。※元バージョンはこちら(Credit: NASA, ESA, Joseph Olmsted (STScI))】

金属を含む岩石天体と氷天体の両方が落下したことを示す証拠は、恒星の死がもたらす混乱の規模を理解する助けになりました。

太陽に近付くにつれてガスを放出する彗星の活動からもわかるように、恒星に近い領域では氷は揮発して失われてしまいます。太陽系の場合、太陽に近い小惑星帯には岩石質の小惑星が分布し、太陽から遠いエッジワース・カイパーベルト以遠には氷を主成分とする小天体が分布しています。

岩石天体と氷天体の両方が落下したということは、惑星系の幅広い領域から白色矮星に向かって天体が落下したことを意味します。UCLAの発表によると、星は白色矮星としての新たな生涯を開始してから1億年以内に、恒星に近い領域と遠い領域(小惑星帯とエッジワース・カイパーベルトのような)の両方から天体を捕獲できる可能性が、今回の研究では確認されたといいます。

今から数十億年後には、太陽も赤色巨星を経て白色矮星に進化すると予想されています。太陽に近い地球などの岩石惑星は蒸発するいっぽうで、木星から海王星までの太陽から遠い惑星は生き延びる可能性があり、木星の重力によって軌道を乱された小惑星は白色矮星になった太陽へ落下していくだろうとJohnsonさんは語ります。未来の太陽系は、研究チームが調べたG238-44の惑星系にとても良く似た運命を辿ることになるようです


Image Credit: NASA, ESA, Joseph Olmsted (STScI)

2022-06-23
Soraeより

白色矮星の降着円盤

Posted by moonrainbow on 28.2022 白色矮星   0 comments   0 trackback
降着円盤の構造をとらえる新たな手法、可視光線とX線の高速同時観測

矮新星はくちょう座SS星の想像図
矮新星はくちょう座SS星の想像図。中心の白色矮星、周りを取り巻く降着円盤、円盤にガスを供給する伴星から成る(提供:東京大学木曽観測所)

矮新星はくちょう座SS星では、可視光線における秒スケールでの明るさの変化がX線に連動していることがわかった。矮新星を構成する白色矮星の降着円盤について知る新たな手がかりとなりそうだ

生まれつつある恒星から、銀河中心核の超大質量ブラックホールまで、大量の物質が中心天体に取り込まれるような場面では、降着円盤と呼ばれる構造が形成される。降着円盤は、ガスの回転による遠心力が中心天体の重力と釣り合うことで維持されていて、ガスが摩擦で回転速度を失うことで中心へと落下していく。この摩擦でガスが加熱され、降着円盤は明るく輝く。

降着円盤の多くは、望遠鏡でも点にしか見えない距離にある。そのため、円盤の構造について知るには、多波長での観測や明るさの時間変動を手がかりとする必要がある。このような観測によって降着円盤の仕組みが解明されてきた天体として挙げられるのが矮新星だ。矮新星とは、高密度な天体である白色矮星と通常の恒星が極めて接近した連星系で、恒星から白色矮星へガスが流出し、降着円盤を形成している。定期的に「ししおどし」のように円盤のガスが急激に白色矮星へ落下するメカニズムが働くため、矮新星は一定の周期で急増光を示す。

代表的な矮新星はくちょう座SS星(SS Cyg)は、1か月ほどの周期で増光と静穏の状態を繰り返す。また、X線から可視光線まで幅広い波長帯域で明るく、とくに可視光線では100年以上もの間観測され続けている。

このはくちょう座SS星が、静穏期でも可視光線で2.5倍、X線で10倍も明るくなるという状態が、2019年8月から1年以上にわたって続いている。これは長い観測の歴史の中で初めてのことだ。東京大学の西野耀平さんたちの研究チームは、この機に降着円盤天体について新たな知見が得られると考え、可視光線とX線での同時観測を2020年9月から11月にかけて実施した。可視光線観測には東京大学木曽観測所105cmシュミット望遠鏡に搭載された高速動画カメラ「トモエゴゼン(Tomo-e Gozen)」、X線観測には国際宇宙ステーションに設置されているNASAのX線望遠鏡「NICER」を使い、どちらの波長でも秒以下での変動までとらえられる観測を実現している。

このうち2020年9月14日に観測した約500秒のデータから、可視光線とX線の変動が同期していることが明らかになった。はくちょう座SS星で可視光線とX線の変光がはっきりと連動しているのが検出されたのは初めてのことだ。また、明るさが急激に変化した部分に着目すると、可視光線の変化がX線の変化に対して約1秒遅れていることがわかった。X線に対して可視光線が遅延する現象が矮新星でとらえられたのは、これも初めてだ/u>。

はくちょう座SS星の可視光線
時間変動の観測結果
はくちょう座SS星の可視光線(赤)とX線(青)の明るさの時間変動。ピンクで示されているのは、明るさの変化が急激だった区間(提供:東京大学大学院理学系研究科・理学部リリース、以下同)

矮新星の降着円盤では、X線は白色矮星付近の高温に加熱されたガスから発せられ、可視光線は比較的低温な円盤外縁部から出ている。また、今回検出された可視光線の遅延は、はくちょう座SS星の白色矮星付近から降着円盤の外縁まで光が伝播する時間とおおよそ一致する。このことから、中心付近の高温ガスからのX線が降着円盤と伴星の表面に当たり、それによって加熱されたガスが可視光線を再放射したのだと考えられる<

幾何学的構造の説明図
円盤の幾何学的構造
はくちょう座SS星の円盤の幾何学的構造の説明図(円盤面の方向から見た断面図)

X線が円盤の外側へ届くには、高温ガスが分布する中心付近の円盤がある程度厚くなければならない。今回のような可視光線とX線の連動は過去に観測されてないことから、中心付近における円盤の拡大は最近起こった可能性がある。

これまで、矮新星の構造をとらえるためには、もっぱらX線のスペクトル解析が用いられてきた。一方、今回の研究では可視光線とX線の同時観測により、降着円盤の形状に関する知識を得ることに成功している。この手法は他の天体における降着円盤にも応用できるだろう。西野さんたちはさらに、可視光線とX線以外も用いた多波長の高速同時観測も検討している


2022年5月23日
AstroArtsより
 

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