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褐色矮星「WISE J062309.94–045624.6」

Posted by moonrainbow on 06.2023 褐色矮星   0 comments   0 trackback
約37光年先の褐色矮星に強力な磁場を発見 電波で観測された最も低温の褐色矮星

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強力な磁場とオーロラを持つ褐色矮星の想像図

恒星と巨大ガス惑星の中間的な天体「褐色矮星」の一部は強力な磁場を持つことが知られていますが、その正確な起源は分かっていません。シドニー大学のKovi Rose氏などの研究チームは今回、表面温度426℃の褐色矮星「WISE J062309.94–045624.6」が強力な磁場を持つことを電波観測によって明らかにしました。これは電波で観測された最も低温の褐色矮星です。検出された電波は磁場に由来するオーロラが発生源ではないかと考えられています

太陽を含む「恒星」には強力な磁場が存在しています。恒星の磁場は、星の内部で発生する複数の小さな磁場の渦がまるで糸巻のように1つの大きな磁場に巻き上げられることによって発生すると考えられています。このような磁場が発生する理由は複雑ですが、恒星の内部が複数の層に分かれていることが主な理由の1つであると考えられています。

その一方で、「褐色矮星」 (※1) の内部は恒星とは異なり層に分かれてはおらず、磁場を巻き上げる作用が起こる条件を満たしていないため、強力な磁場は発生していないと考えられています。しかし実際には、褐色矮星の10%未満はかなり強力な磁場を持っていることが観測されています (※2) 。なぜ、一部の褐色矮星だけがこのような強力な磁場を持つのかは長年の謎となっています。

※1…太陽のような恒星と、木星のような巨大ガス惑星の中間の質量を持ち、性質も中間的であると考えられている天体です。誕生直後の短期間だけ起きた核融合反応の余熱で輝き、ゆっくり冷えていくと考えられています


※2…本文中の「褐色矮星の10%未満」という数値は、正確には褐色矮星のなかでも温度が比較的高い「超低温矮星 (UCD; Ultra cool dwarf)」に対する値です。超低温矮星よりもさらに低温の褐色矮星も存在するので、「褐色矮星の」と表記するのは厳密には正しくありませんが、超低温矮星はあまり使用されない用語であるため、このような表現とさせていただきました

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WISE J062309.94–045624.6は、電波で観測された最も低温の褐色矮星となった (中央の赤い点)

天体の磁場を直接測定することはできませんが、磁場に由来する電波の放出を観測することは可能です。電波の周波数や強度の変化には磁場の性質や状態変化の情報が含まれているため、電波観測を行うことで磁場の起源を間接的に推定することができます。しかし、褐色矮星から放射される電波は非常に弱いため、電波で観測できていない褐色矮星も多数存在しており、褐色矮星における磁場の研究の妨げとなってきました。

シドニー大学のKovi Rose氏などの研究チームは、一部の褐色矮星だけが強力な磁場を持つ謎を知るために、オランダ電波天文学研究所(ASTRON)の電波望遠鏡「LOFAR」と、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の電波望遠鏡「ASKAP」で得られた観測データを分析しました。

対象となったのは、地球から約37光年離れた位置にある褐色矮星「WISE J062309.94–045624.6」です。WISE J062309.94–045624.6の推定表面温度は426℃であり、質量は褐色矮星の下限に近い木星の約13.2倍です。

分析の結果、研究チームはWISE J062309.94–045624.6に由来する電波を見つけ出すことに成功し、最低でも350ガウス以上の磁場(磁束密度)が存在することが分かりました。この数値から単純に計算すると、WISE J062309.94–045624.6は地球の約90万倍、木星の約40倍も強力な “磁石” ということになります。なお、WISE J062309.94–045624.6は電波観測に成功した最も低温の褐色矮星となりました。

今回の研究ではWISE J062309.94–045624.6がどのようにして強力な電波を生み出しているのかは十分に判明しませんでした。しかし、電波観測のデータは、WISE J062309.94–045624.6の電波の特性が巨大ガス惑星に見られるオーロラ由来の電波に似ていることを示しています。このようなオーロラは、天体の磁場の自転速度と大気上層部の循環速度が異なる場合に発生します。WISE J062309.94–045624.6の自転周期は褐色矮星の平均値 (5時間) よりもかなり短い約1.9時間であることが今回の観測で判明しており、検出された電波の源がオーロラである可能性は十分にあります。

また、オーロラ由来の電波は放出される範囲が狭く、地球に届くタイミングは限られていると予想されます。前述の通り、強力な磁場を持つように見える褐色矮星は全体の10%未満ですが、実際にそれしか強力な磁場を持っていないのではなく、大半は地球に届く方向へオーロラ由来の電波が放出されず、単純に見逃されているだけの可能性もあります。そうだとすれば、強力な磁場を持つ褐色矮星は珍しくないのかもしれません。強力な磁場を持つ褐色矮星は珍しいのか、それとも一般的な存在であるのかを知ることは、恒星と惑星のミッシングリンクである褐色矮星の研究において重要です。

今回の研究に使われた電波望遠鏡の1つであるASKAPは、褐色矮星に由来する電波の観測に適していると考えられています。このため、同望遠鏡で追加の観測を行えば、強力な磁場を持つ褐色矮星がさらに見つかるかもしれません。また、ASKAPは非常に感度が高く、非常に低温な褐色矮星である「Y型褐色矮星」からの電波を検出できる可能性があります。ASKAPでの観測が続けば、WISE J062309.94–045624.6よりも低温で電波放射の弱い、 “ほとんど惑星” と言えるY型褐色矮星の磁場を発見する可能性は大いにあります


Source
Kovi Rose, et.al. “Periodic Radio Emission from the T8 Dwarf WISE J062309.94–045624.6”. (The Astrophysical Journal Letters)

2023年7月29日
sorae 宇宙へのポータルサイトより

褐色矮星「WD0032-317B」

Posted by moonrainbow on 13.2023 褐色矮星   0 comments   0 trackback
表面温度8000℃の褐色矮星「WD0032-317B」を発見 超高温な惑星に似た環

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図1: 白色矮星を公転する褐色矮星の想像図。白色矮星は褐色矮星よりもはるかに重いが直径は小さな天体であるため、その周りをさらに大きな天体が公転しているように見える

極端な高温に晒された巨大ガス惑星では、大気を構成する分子が分解して非常にエキゾチックな化学成分を示すと考えられています。しかし、このような条件が揃っている惑星はこれまで1例しか発見されていませんでした

ワイツマン科学研究所のNa’ama Hallakoun氏らの研究チームは、巨大ガス惑星ではないものの、それに非常に近い性質を持ち、約8000℃もの高温に晒された褐色矮星「WD0032-317B」の研究結果を公表しました。8000℃といえば太陽の表面よりも高い温度です。WD0032-317Bの存在は、高温の惑星環境を研究する上での良い観測対象となる可能性があります。

1995年に発見された「ペガスス座51番星b」を皮切りに、極端に恒星に近い軌道を公転する巨大ガス惑星「ホットジュピター」が数多く発見されています。太陽系の巨大ガス惑星である木星や土星とは違い、ホットジュピターは恒星からの強い放射に焙られ続けるため、蒸発した大気が流出している様子も観測されています。また、極端な高温に晒されていることから低温の惑星では見られない化学成分が次々と見つかっており、興味深い対象として日夜観測と研究が行われています。

2017年に発見された「KELT-9b」は、その極端な事例の1つとして知られています。公転軌道が恒星「KELT-9」に極めて近い上に、KELT-9自体が太陽よりも高温なタイプの恒星(表面温度は約9300℃)であるために、KELT-9bの昼側の気温は約4300℃に達しています (※1) 。これは低温なタイプの恒星表面よりも高い温度であり、知られている中では最も高温な惑星です。

※1…KELT-9bは恒星から極端に近い距離を公転しているため、潮汐力の作用によって昼側と夜側は永久に固定されている状態 (潮汐ロック、潮汐固定) だと考えられています。

極端な高温とそれによる激しい大気循環、恒星から降り注ぐ強力な紫外線によって、KELT-9bは水、メタン、水素といった化学的に安定な分子ですら原子単位に分解され、通常は重すぎて大気中に現れることのないテルビウムなどの金属元素が存在しています。KELT-9bはホットジュピターが蒸発する詳しい過程、極度の高温によって生じるエキゾチックな大気の様子、巨大ガス惑星の内部の組成を間接的に知る手段として、非常に貴重な存在です。

ただし、安定な分子が分解するほどの極端な環境にある惑星は、今のところKELT-9bの1例しか知られていません。太陽よりも重いKELT-9のような恒星での惑星発見の事例がほとんどない上に、詳細な大気成分を探るための観測が難しいという技術的な困難さがあるためです。比較できる対象の不在は、超高温の惑星の大気を研究する上で一つの障害となっていました


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図2: 褐色矮星とその他の天体の比較。褐色矮星は巨大ガス惑星と軽い恒星 (赤色矮星) の間の性質を持つ

今回Hallakoun氏らが報告したWD0032-317Bは惑星ではないものの、よく似た性質を持つ「褐色矮星」と呼ばれるタイプの天体です。褐色矮星は巨大ガス惑星と恒星の中間に属する天体であり、その重さは木星の13倍~80倍です。褐色矮星の中心部では重水素やリチウムの核融合反応が起こりますが、存在量が非常に少ない原子核を素にしている反応なのですぐに停止してしまい、その後は赤外線放射をしながらゆっくりと冷えていくことになります。褐色矮星は高温のタイプでも表面温度は2000℃未満であり、なかには100℃を下回って水の雲を持つ例すらあります。この点で、褐色矮星は巨大ガス惑星の非常に重いタイプだと見なすことができます。

今回の研究対象となった褐色矮星WD0032-317Bは、地球から約1410光年離れた位置にある白色矮星「WD0032-317」をわずか2.3時間周期で公転しています。WD0032-317は恒星ではなく白色矮星(太陽くらいの軽い恒星が寿命を迎えた後に残す高密度の中心核)ですが、その表面温度は約3万7000℃と推定されています。白色矮星と褐色矮星の組み合わせはこれまで12例しか見つかっておらず、その中でもWD0032-317はかなりの高温です。WD0032-317Bはかなりの高温と強烈な紫外線に晒されていると推定されますが、正確な環境はわかっていませんでした。

Hallakoun氏らは過去の観測結果に基づく複数のモデルを構築し、WD0032-317Bの環境を推定しました。最も難しいのは、白色矮星の放射の特性を決める中心核の組成であるため、今回の研究では「ヘリウム核 (ヘリウムを主体とした中心核)」と「ハイブリッド核(炭素など様々な元素が混合した中心核)」という2つの仮定を元に計算を行いました。

その結果、WD0032-317Bの昼側 (※2) の気温は、ヘリウム核モデルでは7600℃、ハイブリッド核モデルでは8500℃だと推定されました。この温度はKELT-9bを上回り、恒星である太陽の表面温度(5500℃)よりも高い温度です。その一方で、夜側はどちらのモデルでも約1700℃だと推定されるため、昼夜の温度差は6000℃前後もあることになります。また、WD0032-317Bが受ける極紫外線(非常に高エネルギーの紫外線)は、KELT-9bの5600倍であると推定されます。

※2…上記KELT-9bと同様に、WD0032-317Bの昼夜も固定されていると考えられています。

これほど極端な熱と紫外線を受ける環境では、褐色矮星自体の赤外線放射は無視できるため、WD0032-317Bは事実上巨大ガス惑星と同等であると見なせるため、KELT-9bと比較できる観察対象になり得ます。WD0032-317Bのさらなる詳細な観測は、極端な環境に置かれた巨大ガス惑星の大気成分の変化や、どのように大気が蒸発していくのかを調べるための良い指標になると考えられます


Source
Na'ama Hallakoun, et.al. “An irradiated-Jupiter analogue hotter than the Sun”. (arXiv)

2023年7月6日
sorae より

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が褐色矮星を発見

Posted by moonrainbow on 14.2022 褐色矮星   0 comments   0 trackback
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、砂の雲で覆われた異世界広がる褐色矮星の観測に成功

褐色矮星の観測
image credit:NASA/JPL-Caltech

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が褐色矮星を発見

 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、砂のような「ケイ酸塩の粒の雲」でおおわれた奇妙な天体を観測した。
 それは、地球から72光年離れた褐色矮星「VHS 1256 b」で、木星より20倍ほど大きく、赤みを帯びて見える。このタイプの天体が確認されたのは今回が初とのことだ。

赤い輝きを放つ奇妙な褐色矮星「VHS 1256 b」
 「褐色矮星(かっしょくわいせい)」とは、恒星として輝くには小さすぎるが、惑星としては大きすぎる超低質量天体のことだ。質量が足りないので軽水素が核融合することはないが、重水素(陽子1つ、中性子1つで構成される水素の同位体)が燃えて光や熱を放つ。

 褐色矮星「VHS 1256 b」は2016年、からす座の方角に地球から72光年離れたところで発見された。2つの赤色矮星のまわりを周っており、奇妙なことに赤い輝きを放っていた。

 赤みを帯びている原因は、以前から大気のせいではないかと推測されていたが、今回ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によってその仮説の正しさが確認された。

 VHS 1256 bのまわりには「ケイ酸塩」の砂粒でできた分厚い雲があったのだ


褐色矮星の観測1
image credit:NASA/JPL-Caltech

大気が荒々しく吹き乱れている天体
 
その大気からはケイ酸塩のほかにも、水・メタン・一酸化炭素・二酸化炭素・ナトリウム・カリウムも検出されている。

 興味深いことに、大気に含まれるそうした気体の割合は、場所によって違う。これは大気が荒々しく吹き乱れているだろうことを意味している。

 ちなみに、研究グループのサーシャ・ヒンクリー氏(エクセター大学)の説明によると、これまでに発見された太陽系外惑星には、大気の割合に偏りがあるものが多いのだそうだ。

 そうした惑星では、大気の下にある二酸化炭素がすくい上げられて、上部のメタンと混ざっていると考えられている。

 VHS 1256 bは褐色矮星としては小さく、おそらくは若い天体であるという。2つの親星から360AU(1AU = 太陽と地球の平均距離)離れた楕円形の軌道を、1万7000年かけて1周している


2022年09月10日
カラパイアより

褐色矮星「GLASS-JWST-BD1」

Posted by moonrainbow on 03.2022 褐色矮星   0 comments   0 trackback
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測史上最遠の褐色矮星「GLASS-JWST-BD1」を発見!

褐色矮星「GLASS-JWST-BD1」
【▲ 図1: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が6つの波長で捉えた褐色矮星「GLASS-JWST-BD1」の画像。長い波長になるほど明るくなる傾向にあり、最も短い波長 (F090W) では写っていないことが分かります(Credit: Nonino, et.al.)】

太陽のような恒星は、中心部で発生する核融合反応によって自ら光を放出しています。恒星の質量は大きければ大きいほど重い元素の核融合反応が発生しますが、最も軽い元素である水素の核融合反応が起こるためには、ある程度の質量が必要です。恒星の下限となる質量は太陽の0.08倍、すなわち木星の80倍であると考えられています

しかしながら、実際にはこの値を下回っても、天体は自ら光を放出している場合があります。これは、水素の中には核融合反応を起こしやすい重水素 (※) という同位体がわずかながら含まれているためです。重水素の核融合が起こらなくなる下限質量はよく分かっていませんが、現在では木星の質量の13倍であると考えられています。

※…水素の原子核は陽子1つで構成されているが、重水素の原子核は陽子1つと中性子1つで構成されている。

水素と重水素の核融合が起こる下限質量の中間、つまり木星の質量の13倍から80倍の質量を持つ天体は、恒星とガス惑星の中間的な性質を持つと考えられており、「褐色矮星」と呼ばれています。

恒星の数は質量が小さいほど多いという傾向から考えると、褐色矮星は宇宙に相当な数が存在し、恒星の総数より多く存在する可能性すらあります。このため、褐色矮星を研究することは、宇宙の多数派を通じて天体そのものの性質を研究することにも繋がります。

また、褐色矮星の大気からは、水のような生命に欠かせない物質や、一水素化クロムのような珍しい物質が見つかっています。褐色矮星の形成は恒星のように単独でできる場合もあれば、惑星のように他の恒星の周りにできる場合もあると考えられているため、恒星や惑星の組成を探る指標としても注目されます


T型褐色矮星の想像図
【▲ 図2: 今回発見された褐色矮星「GLASS-JWST-BD1」と同じタイプであるT型褐色矮星の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

しかしながら、褐色矮星は恒星よりもはるかに暗い天体であることから、極めて観測が難しい天体でもあります。加えて、褐色矮星から最も多く放出される電磁波の波長は赤外線です。赤外線の波長の一部は地球の大気に吸収されてしまうため、地上からの観測では限界があります。

現在までに褐色矮星は数百個以上発見されていますが、その多くは数十光年以内にあります。100光年以上離れている褐色矮星のほとんどは、普通の恒星の周りを公転しており、太陽系外惑星の探索で発見されたものです。近くに恒星があることから、これらの褐色矮星の性質はほとんど知られていません。

トリエステ天文台のMario Nonino氏などの研究チームは、「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡のデータを解析中に、ウェッブ宇宙望遠鏡では初となる新しい褐色矮星を発見しました。ウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線望遠鏡であり、褐色矮星の発見は期待される成果の1つではありましたが、予想以上に早い発見となりました。

発見されたのはパンドラ銀河団とも呼ばれる「エイベル 2744」を中心とした「ちょうこくしつ座」の星域です。「GLASS-JWST-BD1」と名付けられたこの褐色矮星(図1)は、最も明るく写った波長4.44µmでも25.84等級という極めて暗い天体です。

観測波長ごとの明るさから、遠方の銀河やクエーサーである可能性を排除でき、表面温度が約330℃ (600K) のT型褐色矮星とよく一致する結果が得られました。T型褐色矮星は極めて温度の低い褐色矮星であるため、発見自体が貴重です。GLASS-JWST-BD1の質量は太陽の0.03倍、木星の30倍であり、誕生から50億年経っていると推定されています。

そして何より、地球からGLASS-JWST-BD1までの距離は1900光年から2400光年 (570パーセクから720パーセク) と推定される点が驚異的です。恒星の伴星となっているものを除き、単独で存在している既知の褐色矮星で今まで一番遠かった「OTS 44」までの距離が530光年であることを考えると、いかに遠いかがわかるでしょう


ウェッブ宇宙望遠鏡は天文学史上最も遠い天体である「CEERS-93316」を発見するなど、極めて遠い宇宙の観測に注目が集まっています。その一方で、はるかに近い宇宙にも、まだまだ未観測の興味深い天体が数多く残されていると考えられています。

JWSTの活躍によってGLASS-JWST-BD1のような未発見の褐色矮星が次々と見つかれば、謎の多い天体である褐色矮星の理解が進むことになるでしょう


M.Nonino, et.al. “Early results from GLASS-JWST. XIII. A faint, distant, and cold brown dwarf”. (arXiv)
V. Joergens, et.al. “OTS 44: Disk and accretion at the planetary border”. (Astronomy & Astrophysics Letters)
C. T. Donnan, et.al. “The evolution of the galaxy UV luminosity function at redshifts z ~ 8-15 from deep JWST and ground-based near-infrared imaging”. (arXiv)

2022-08-27
Soraeより

褐色矮星「WISEA J153429.75-104303.3」の特徴

Posted by moonrainbow on 15.2021 褐色矮星   0 comments   0 trackback
「奇妙な特徴を持つ褐色矮星」の正体が判明

褐色矮星(brown dwarf)のイラスト図
【▲ 褐色矮星(brown dwarf)のイラスト図(Credit: IPAC/Caltech)】

NASAは8月31日、アメリカ、カリフォルニア州カルテックの天体物理学者デイビー・カークパトリックさん率いる研究チームが、奇妙な特徴を持つ褐色矮星「WISEA J153429.75-104303.3」こと「アクシデント(The Accident)」の奇妙な特徴の理由を解明したと発表しました

褐色矮星を解りやすく解説したイラスト
【▲ 褐色矮星を解りやすく解説したイラスト。左から、木星などの巨大ガス惑星、褐色矮星、恒星になります(Credit: NASA/JPL-Caltecかh)】

褐色矮星(brown dwarf)は木星などの巨大ガス惑星と恒星との中間的な質量を持つ天体です。その質量は木星の質量の13倍から80倍ほどになります。質量が足りないために、水素の核融合反応は起こらず、時間が経つにしたがって、冷えて暗くなっていきます。

このような褐色矮星、アクシデントは市民科学者ダン・カゼルデンさんによってその名の通りに偶然に発見されました。

ダンさんは、独自に開発したオンラインプログラム(an online program)を使って、褐色矮星を探すために、NASAの地球近傍天体広域赤外線探査衛星NEOWISE(Near-Earth Object Wide-Field Infrared Survey Explorer)のデータを解析していました。このとき、ダンさんは、褐色矮星の候補の1つを見ていたのですが、ノーマークだったさらに暗い天体がササッとスクリーンを横切っていったのに偶然にも気がつきました。この天体がアクシデントでした。

では、なぜ、アクシデントはノーマークだったのでしょうか?

実はアクシデントはこれまで天の川銀河内で見つかっている2000個を超える褐色矮星の特徴とは異なる奇妙な特徴を持っていたためでした。そのため普通の褐色矮星の特徴を前提に開発されたダンさんのプログラムの目を見事にかいくぐっていたというわけです。

その奇妙な特徴とは、褐色矮星は歳を取ると冷えて暗くなっていくのですが、アクシデントは、ある波長で観測すると明るく若く見えるのに、他の波長で観測すると暗く老いて見えるのです。

最初、研究チームは、アクシデントがこのように暗く見えるのは、アクシデントが地球から予測されているよりも遠くにあるためではないかと考え、ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡の観測データを使って、アクシデントまでの距離を正確に測定しましたが、この可能性は否定されました。しかし、その過程で、研究チームはアクシデントがなんと時速約80万kmという恐るべきスピードで移動していることに気がつきました。

研究チームによれば、アクシデントは、重い天体に出会う度に、その重力によって加速されながら、長い間、天の川銀河のなかを移動し続けているのだろうといいます。

結局、ケック天文台による追加的な観測などさまざまな証拠から、アクシデントは、歳より暗く見えているのではなく、歳よりも明るく見えていることが解りました。

炭素は、恒星の内部でつくられ、超新星爆発によって銀河全体に拡散されます。そのため、銀河が誕生したときには、銀河には炭素はほとんど存在していませんでした。つまり、天の川銀河が誕生してからまだ炭素がほとんど存在していない時期に誕生したアクシデントには炭素と水素からなるメタンがほとんど含まれておらず、メタンによって吸収されるはずの波長の光が歳不相応に明るく観測されていたというわけです。ちなみに褐色矮星には広くメタンが含まれています。

研究チームの推定によれば、アクシデントはおそらく100億歳から130億歳ほどになるといいます。これはこれまで知られている褐色矮星の一般的な年齢の少なくても2倍ほどにもなります。このように古い褐色矮星は非常に珍しいそうです


Image Credit: IPAC/Caltech/NASA/JPL-Caltech

2021-09-10
Soraeより
 

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