パラレルワールド(並行世界)は存在するのか?物理学者がその可能性を探る
パラレルワールド(並行世界)は存在するのか? この宇宙とはまた別の宇宙がどこかにある、とまことしやかに囁かれているパラレルワールド(並行世界・並行宇宙)とは、ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界のことだ。
この世界にはいくつもの宇宙が並行して存在するという構想は、SFなどでは魅力的な設定で、それをテーマにいくつもの物語が綴られてきた。
だが現実に、そんなものが本当に存在するのだろうか?
フェルミ国立加速器研究所の物理学者ドン・リンカーン博士は、光と重力の性質を考察し、その可能性を探っている。
それによると、少なくともこの宇宙に平行世界の存在を示唆するような痕跡はまだ見つかっていないという。だが、そ平行世界の存在を完全に否定する証拠もまたないことも博士は認めている。
つまりパラレルワールドは「ある」とも「ない」とも言い切れないのだ。
2次元宇宙で暮らしていると想定した思考実験 この世界は3次元の空間でできている。だからその住人である私たちは前後・左右・上下に移動することができる。
だが残念ながら3次元宇宙の住人にとって、4次元宇宙を想像するのは難しい。
そこで 平行世界の可能性を探るうえで、ひとまず私たちは2次元宇宙で暮らしているということにしよう。
2次元の宇宙は平面しかない世界だ。だから、そこの住人は東西南北に移動できても、階段を使って上に行ったり、下に行ったりすることはできない。
だが、この世界には私ちには認識できないもう1つの次元が隠されており、真の姿は3次元なのだとしよう。
さらに私たちが暮らす2次元宇宙とはまた別の、2次元の平行宇宙がいくつも存在するとしよう。
異なる2次元宇宙は、まったく同じ空間上には存在できないので、3次元軸上を重なるように存在する。
それはペラペラの紙を何枚も積み重ねたようなものだ。1枚1枚が完全な2次元の宇宙で、それらが3次元に積み重ねられている。
このような平行宇宙はあり得るのだろうか?
幽霊は平行宇宙から届いた光なのか? それぞれの紙は、別々の宇宙を表しているが、触れ合っている紙同士ならば、お互いわずかに影響し合うこともあるかもしれない。
例えば、俗に言う”幽霊”は、別の平行宇宙から光が届き、そこの住人たちの姿が見えてしまったものとは考えられないだろうか?
それがぼんやりとしか見えないのは、この宇宙と平行宇宙がわずかにしか交差していないからだ。
だが、物理学者であるリンカーン博士は、これについて一言言いたくなるようだ。
さまざまな実験によって、光の強さは、光源からの距離の2乗に反比例して弱くなることが知られている。これは「逆2乗の法則」として知られ、数学的には「1/距離2」と表される。
リンカーン博士によると、この光の性質は、じつは光が進むことのできる次元の数を表しているのだという。それは平行宇宙の存在を考えるうえで、重要な意味を持つ。
電球のような光源から発せられた光は、光源から球状に広がっていく。
球(ここからは3次元の話だ)の表面積は、半径の2乗に比例する(表面積 = 4πr2)。そして光は、この球の表面全体に均一に広がっていく。
じつはこうした数式に登場する”2”は、光が移動できる次元の数よりも1つ少ない数に相当する。仮に光が3次元空間を移動できるのだとすれば、3 - 1= 2となる。
もしも幽霊がここではない別の宇宙からやってきた光ならば、光は4次元を進むことができなければならない。だとするなら、光の強さの公式は1/距離3となるはずだ(4 -1 = 3だから)。
だが、これまでの観察によるならば、光の強さは距離の3乗ではなく、距離の2乗に反比例して弱くなる。

光源との距離が2倍になると、光は4倍の面積に広がる。よって光の強さは4分の1になる / image credit:JPL / CalTech / NASA
銀河の回転が異常に速い理由は? リンカーン博士にると、こうした光の性質は、銀河の謎にも関係しているという。
この宇宙に無数に存在する銀河を観測してみると、それらが今わかっている重力や運動の法則だけでは説明できないほど速く回転していることがわかる。
なぜだか、銀河は目に見える質量よりもっと重いかのように振る舞うのだ。
この事実は、「暗黒物質」という目に見えないミステリアスな物質があるだろうと、天文学者たちが想像する理由の1つだ。
だがSFマニアの中には、それはパラレルワールドにある質量の影響ではないかと推測する人もいる。
それによると平行宇宙から重力が届き、それがこの世界の重力と合わさることで、不可解なほど銀河の回転を速めているのだという。
面白い仮説だが、リンカーン博士はこれもまた幽霊の理屈で否定している。もしも重力が本当に平行宇宙の間を越えて伝わるのならば、その強さは距離の3乗に反比例して弱くなるはずだ。
だがこの世界で調べた結果によるならば、それは正しくない。

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結局パラレルワールドは存在するのか?しないのか? こうして、光と重力の性質から、それらが3次元宇宙を越えて移動できる可能性は否定された。
ではそれによって、平行宇宙の存在までも否定されるのだろうか?そんなことはない。
これまでの話は、ある宇宙の物質やエネルギーが別の宇宙に届くかどうかを考察したものだ。それが届かないからといって、別の宇宙が存在しないとは断言できないだろう。
何もデータがない以上は、その存在を否定するデータもまたないのだ。
そうは言っても、あるはずのものが、何も痕跡を残さないというデータもない。存在を示唆するデータが一切ないのならば、おそらく存在しないと結論づけるのが自然だ。
今回の話で言うならば、平行宇宙の存在を示唆するデータが一切ないのならば、おそらくは存在しないだろうと結論づけても問題なさそうということだ。
もちろん平行宇宙やパラレルワールドという言葉が、今回の並行宇宙とはまた別の何を指していることもあるだろう。そのようなケースについて、ここでの議論は当てはまらない。
だが、今回のように一つ一つ可能性を消していくことが、科学の進歩なのだと、リンカーン博士は語っている。
2023年11月13日
カラパイアより