太陽系の外では、遠くに行けば行くほど物質の密度が高まることが判明(NASA)
太陽系外の物質の密度 image by:NASA/JPL-Caltech
さかのぼること2年前、2018年11月5日、41年もの壮大な旅の末にボイジャー2号がついに太陽圏を脱出し、恒星間宇宙へと進出した。だが、そのミッションはまだ終わっておらず、今もなお太陽系の外に広がる宇宙の様子を知らせてくれている。
『The Astrophysical Journal Letters』(8月25日付)で発表されたその最新情報によると、ボイジャー2号が太陽から離れるほどに、どうしたわけか宇宙に漂う物質の密度が増しているとのことだ。
じつは以前、同じ現象がボイジャー1号によっても伝えられている。今回のデータはその観測結果の裏付けとなるだけでなく、密度の高まりが非常に広い範囲で生じている可能性を示唆しているそうだ。
太陽圏――太陽系の境界
太陽系の境界はいくつか定義することができるが、ボイジャーの両機が突破したのは、「太陽圏(ヘリオスフィア)」と呼ばれる太陽風が届く範囲という意味での境界だ。
太陽からは全方位に向けて電離したプラズマの粒子、すなわち「太陽風」が放出されている。
太陽風は、太陽から数百億キロの半径内では時速100万キロ以上で吹いているが、やがて周囲の星間物質の圧力によって勢いが弱まり、どこかの地点でそれ以上飛ばなくなる。
この地点のことを「ヘリオポーズ」といい、これが太陽圏の境界となる。その内側が太陽圏で、外側には恒星間宇宙が広がっている。
ちなみに太陽圏はシンプルな球のような形をしているわけではない。どちらかというと、太陽系が先端にあり、そこから尾が流れているような楕円形で、先端は天の川を公転する太陽系の進行方向を向いている。
ボイジャー両機が通過したのは先端側のヘリオポーズで、それぞれが異なる角度で太陽圏から離脱した。
NASA’s Voyager 2 Enters Interstellar SpaceNASA’s Voyager 2 Enters Interstellar Space
宇宙は真空ではない 宇宙には何もない真空の空間というイメージがあるが、そんなことはない。密度はかなり低いが、一応物質が存在する。太陽風が吹いている太陽系内では、陽子と電子の数は1cm3あたり平均3~10個だ。
これが太陽圏の外になるとさらに密度は下がり、天の川内にある「星間媒質」(宇宙に存在するガスや塵など)の電子密度は、1cm3あたり平均0.037個と試算されている。
なぜか高まる物質の密度の謎
地球から181億キロ離れたヘリオポーズを通過後、ボイジャー1号が最初にプラズマ振動の計測を行ったのは2013年10月23日のこと。地球から183億キロ離れた地点での計測結果によれば、1cm3あたりの平均電子数は0.055個だった。
2019年1月30日、太陽圏から離脱したボイジャー2号もまた179億キロの遠方で計測を実施。1cm3あたりの平均電子数0.039個と、1号の計測値にかなり近い数値が得られた。
奇妙なことに、両機のデータはともに太陽から離れるほどに密度が高まることを示している。その後さらに地球から29億キロ遠ざかったボイジャー1号の計測値は0.13個。同様に60億キロ遠ざかった2号の計測値は0.12個だった。
密度が上昇したとはいえ、地球の大気圧プラズマ(大気圧で放電されるプラズマ)なら電子密度は1cm3あたり平均10兆個なので、それに比べればほとんど無にも等しい。それでも密度が上昇する原因は分かっておらず、謎めいている。

image by:NASA/JPL-Caltech
物質の密度が高まる2つの仮説 その原因としては、ヘリオポーズでは恒星間の磁力線が強まっていることと関係があるという仮説が提唱されている。
このために「電磁イオンサイクロトン不安定性」が発生し、ヘリオポーズ付近ではプラズマが少なく、そこから離れるほどに密度が高まるのだという。実際、ボイジャー2号はヘリオポーズを通過する際に、予想以上に強い磁場を検出している。
もう1つの仮説は、太陽圏に吹いてくる恒星間風が、ヘリオポーズ付近で交通渋滞のような状態になり、速度が遅くなることと関係があるというものだ。こうした現象が起きていることを示すものとして、NASAの探査機ニュー・ホライズンズが検出した微弱な紫外線の輝きが指摘されている。
なお、どちらの説も正しい可能性もあるとのこと。はっきりとした結論を出すには、今後も届けられてくるだろうボイジャー両機からの便りを待つしかないようだ。
2020年10月28日
カラパイアより