人間が”安全”にブラックホールの中に入ることは可能なのか?
人は安全にブラックホールの中に入ることは可能なのか? / Pixabay
光すら逃げることができないブラックホールの内部は、今の私たちにはまったく未知の領域だ。真理を追求する科学者ならば、どうにか中に入って内部の様子を観察したいと願っているだろう。
さて、そんな命知らずの科学者がいたとして、本当にわざわざブラックホールに入りて、内部を観察するなんてことができるのだろうか?
アメリカ・グリネル大学のレオ・ロドリゲス助教とシャンシャン・ロドリゲス助教が、『The Conversation』で、そんな無謀な挑戦について考察している。
恒星ブラックホールと超大質量ブラックホール 一口にブラックホールというが、この宇宙には様々な種類のものが存在している。ちょうど原子の周りにある電子や陽子がさまざまであるように、ブラックホールの大きさや電荷もまたさまざまで、中には回転しているブラックホールもある。
が、レオ・ロドリゲス助教とシャンシャン・ロドリゲス助教は、今回の話をする上で、ざっくり2種類にブラックホールを分類している。
1つは「恒星ブラックホール」だ。回転しておらず、電気的に中立(正の電荷も負の電荷もない)で、太陽くらいの質量を持つ。
もう1つは、「超大質量ブラックホール」だ。こちらは太陽より数百万倍から数十億倍も重い。
この2種類のブラックホールは、質量以外にも、中心(特異点)から「事象の地平面」までの距離、つまりは半径の点でも違いがある。
事象の地平面とは、あらゆるものが二度と戻れなくなる境界のことだ。ここを越えてしまえば、光ですらブラックホールの重力から逃げることが不可能になり、既知の宇宙から永遠に姿を消すことになる。
事象の地平面の半径は、ブラックホールの質量で決まる。太陽くらいの質量(1太陽質量)のブラックホールなら、たった3.2キロくらいだ。
それとは対照的なのが超大質量ブラックホールだ。たとえば天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホールは400万太陽質量を持つが、その半径は1170万キロ、すなわち17太陽半径となる。

i超大質量ブラックホールと降着円盤の想像図 credit:public domain/wikimedia
ブラックホールに近づくとどうなるか?恒星ブラックホールだと死んでしまう
半径が小さな恒星ブラックホールの場合、理屈の上では、事象の地平面を越えることなく、その中心までかなり接近することができる。
しかし中心に肉迫できるために、人体にかかる引力は、頭と爪先で1兆倍もの差が出ることになる。このために人体はスパゲッティのように長く引き伸ばされ、普通の人なら死んでしまう。
超大質量ブラックホールなら進入可能 その反対に超大質量ブラックホールの場合、事象の地平面に到達したとしても、その中心までは相当距離がある。そのために、頭と爪先にかかる引力にはほとんど差がない。
これなら人間スパゲッティになることなく、生きたまま事象の地平面を通過し、ブラックホール内部に進入できることだろう。

ブラックホールに落ちて、ブラックホールの地平線に近づきながら引き伸ばされている人
credit:Leo Rodriguez/Shanshan Rodriguez/CC BY-ND
これまでに観察されてきたブラックホールのほとんどは、ガスや塵、近づきすぎた星々などでできた高温の円盤によって囲まれている。これを「降着円盤」というのだが、熱く混沌としたこの領域は人間にとってはかなり危険なところだ。
だから安全に進入できるブラックホールは、ただ大質量なだけではダメで、周囲の物質を飲み込んでいない完全に孤立したものということになる。

超大質量ブラックホールなら、生き残る可能性あり
credit:Leo & Shanshan Rodriguez/CC BY-ND
例え入れたとしても帰ってこられるわけではない さて、そんな観察にぴったりのブラックホールが見つかり、いざそこにダイブする覚悟を決めたとする。
だが、せっかく捨身で事象の地平面の内側を観察することができたとしても、その知識はそこに身を投じた者だけのものだ。
事象の地平面を越えた先は、光ですら二度と戻ることができない世界だ。無事に進入できた人間は、その情報を外に伝えることができないので、ブラックホールの外側にいる者たちにとってはないも同然だ。
それでも1人の科学者としては、誰も知り得なかった真理に触れて満足できるのではないだろうか?2021年02月08日
カラパイアより