人工磁場で火星を居住可能に。科学者らが提唱する大胆なテラフォーミング計画
人工磁場で火星を居住可能にする計画 世界の目は今、宇宙へ向けられている。民間企業も続々と宇宙事業に参入し、有人月面着陸や有人火星探査もまもなく実施予定だ。
人類が宇宙を目指すのは、第二の地球探しという目的もある。地球がいよいよヤバくなったら、他の惑星に移住するというSFの世界が現実となるのだ。
移住先の候補地としてあがっているのが火星である。そこで、NASAなどの研究グループが、火星に「人工磁場」を発生させる大胆な計画を提唱している。
近未来、人類が火星で恒久的に暮らそうというのなら、惑星を守るバリアとなる磁場が欠かせない。そこで、火星の第1衛星「フォボス」を磁場の発生装置にしてしまおうというのだ。
火星に移住するには磁場が必要 火星は、1日の長さが地球とほぼ同じで、地表には凍った水まであり、いずれは呼吸できる大気すら作れるだろうと考えられている。
人類の将来的な入植地としてこれだけ有利な条件を備えながら、1つ足りないものがある。それは「磁場」だ。
磁場は、太陽風や宇宙線から惑星を守るバリアになる。
たとえば、ここ地球では、宇宙から飛来する高エネルギーの宇宙線を防ぎ、私たちの体を守ってくれている。
また大気があり続けるためにも不可欠だ。
今、地球に大気が存在するのは、磁場が太陽風を防いでくれるからだ。火星にはかつて分厚い大気があったが、磁場が弱かったために太陽風に吹き飛ばされてしまった。

地球の磁場 photo by iStock
人工的に火星に磁場を作る 地球の場合、その核でドロドロに溶けた鉄が対流しており、その作用によって磁場が発生している。
ところが火星の核は小さく、温度も低い。そのため、地球内部で起きているプロセスをそのまま再現することができない。ならどうすればよいのか?
人工的に磁場を作り出せばよいのだ。その方法はある。
『Acta Astronautica』に投稿された研究(『arXiv』で未査読版を閲覧可能)によると、惑星に磁場を形成させるうえで大切なのは、その内部か周囲にしっかりとした「荷電粒子の流れ」があることなのだという。
先ほど説明したように、火星は内部にその流れを作るのには向いていない。だから周囲にそれを作るのだ。火星の第1衛星「フォボス」を使って。

credit:NASA / Goddard / MAVEN / CU Boulder / SVS / Cindy Starr
衛星「フォボス」でプラズマのリングを形成 第一衛星であるフォボスは、火星にぴったり寄り添うように公転している。あまりにも距離が近いために、たった8時間で火星を一周してしまうほどで、磁場の発生装置としては、都合がいい特徴だ。

火星の第1衛星 フォボス photo by iStock
今回の論文では、そんなフォボス表面の粒子をイオン化し、さらに加速させることで、その軌道に沿って「プラズマのリング」を形成しようと提唱されている。
これによって発生する磁場は、火星をテラフォーミングするのに十分な強さであるという。
惑星の大気や温度、表面の地形や生態系を地球の環境に近づけ、地球に住む生命体が居住できるようにするプロセスをテラフォーミングという。

credit:Ruth Bamford
惑星のテラフォーミングに向けて これまで人類は、SFの世界にしか存在しなかったものを次々と具現化してきた。今回のアイデアも大胆で、技術的な難易度は高いものの、試行錯誤を繰り返していけば、実現可能になるかもしれない。
Amazonの創始者、ジェフ・ベゾス氏は、いずれ地球は住むべき場所ではなく守るべき場所となり、数世紀後に人類は宇宙で生まれ、宇宙コロニーで生活するようになると予想した。
その移住先が月になるか、火星になるか、あるいはほかの惑星になるかはわからないが、テラフォーミングに向けての計画は着々と進められているようだ2021年11月24日
カラパイアより