ブラックホールによりスパゲッティ状態となった星の末路が明らかに ブラックホールに飲み込まれた星の末路 光すら脱出できないブラックホールに近づいた星は、想像を絶する重力によって、スパゲッティのように長く引き伸ばされる。 だが意外なことに、最終的にかなりの部分がブラックホールに直接落下することなく、周囲に吹き飛ばされてしまうようだ。 『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』(2022年6月24日付)に掲載された研究では、ブラックホールに飲み込まれスパゲッティ化した星を観測し、星がやがて球状の雲になることや、星を飲み込んだブラックホールからX線が観察されない理由を説明している 。
巨大な重力で星をスパゲッティ化するブラックホー ル
ブラックホールに近づきすぎた星は、その巨大な重力によって、スパゲッティのように引き伸ばされる。 「潮汐破壊」と呼ばれるこの現象は、これまでもいくつかの星で実際にその痕跡が確認されている 。
潮汐破壊現象イメージ図 / image credit:Credit: NASA / CXC / M. Weiss
カリフォルニア大学バークレー校のウェンビン・ル博士は、プレスリリースでこう説明する 。
超大質量ブラックホールでも特にイカれたことの1つは、巨大な潮汐力で星をズタズタにすることだ。 潮汐破壊現象は、銀河の中心に超大質量ブラックホールが存在することを知り、その性質を計測できる数少ない方法の1つだ しかし気が遠くなるような距離や地球との間に存在する物質のために、潮汐破壊現象の観察は簡単なことではない。 ブラックホールにどれほど近づくと潮汐破壊が起きるのかすら、今のところごく簡単にしか理解されていない。 また奇妙なことに、これまで観察された潮汐破壊が起きているブラックホールからは、X線などの高エネルギー放射が見当たらないという謎もある 。
Tidal Disruption Event: Black Hole Shreds Star VIDEO ブラックホールに引き伸ばされた星に僅かな偏光 2019年にエリダヌス座の方向で観測された増光現象も、ブラックホールに引き伸ばされた星の痕跡だ。 これは「AT2019qiz」と呼ばれ、太陽の100万倍も重いブラックホールが、太陽くらいの星を飲み込んだことで生じたものだ。 当時、飲み込まれた星の大半はスパゲッティ化したが、その時生じた強風によって一部が吹き飛ばされ、雲ができていると結論づけられた。 今回の研究では、AT2019qizの一番明るいところに僅かな偏光があることを特定。ここから、問題の雲はほぼ「球対称」であろうと推測している。 これは形について結論を出せるほどはっきり潮汐破壊現象を観測できた初の事例で、その半径は地球軌道の100倍ほどであるという。 雲の形がほぼ球状ということは、ブラックホールは大量のガスに囲まれているだろうことになる。ブラックホール周囲の降着円盤から発生するはずのX線が見えないのは、こうしたガスに遮られているからだ。 X線がガスで散乱した結果、波長が紫外線や可視光線にまで伸びてしまうのだと考えられる 。
Death by spaghettification: artistic animation of star being sucked in by a black hole VIDEO ブラックホールに近づいた星の大部分は吹き飛ばされる 研究グループのキショア・パトラ氏は、「この発見によって、これまで提案されてきた仮説が否定され、ブラックホール周辺のガスに起きている現象を、もっと限定して考えらえるようになった」と語る。 今回の発見は特に、星のスパゲッティ化には強風が伴うという従来の仮説を裏付けるものでもある。 ブラックホールに近づいた星は、螺旋を描いて落ちていくが、最終的にそのかなりの部分がブラックホールには落下せず、吹き飛ばされるということだ。 ただしAT2019qizが、潮汐破壊の典型的な事例であるかどうかはまだわからない。ブラックホールの飲み込まれた星の運命を明らかにするには、さらなる研究が必要になることだろう 。
2022年07月16日
カラパイアより