超大質量ブラックホールの正体がワームホールの入り口である可能性(ロシア研究) 超大質量ブラックホールがワームホールの入り口なのか確認する方法 / Pixabay
光速をもってしても広大すぎる宇宙だ。人間の時間軸の中で宇宙スケールの距離を移動しようと思えば、何かもっと別の方法が必要になる。
そこで考えられるのが、「ワームホール」を通過するという方法だ。これは時空の一点から別の一点へ直結しているとされるトンネルのような構造のことで、「アインシュタイン=ローゼン橋」とも呼ばれる。
もし、ここを通行することができるのなら、宇宙のはるか彼方にまで一気にワープすることが可能になる。光速を超える移動を実現できるのだ。
ワームホールを探す方法 ワームホールは一般相対性理論によってその存在が予測されているが、実物が観測されたことはなく、今のところ仮説上のものである。
これに関して、「活動銀河核」がワームホールなのではないかという説が2006年に提唱されている。
銀河の中には、中心にある1%程度のコンパクトな領域から大半のエネルギーを放出するものがある。これを「活動銀河」といい、その中心の領域が活動銀河核だ。
活動銀河核がそれほどのエネルギーを放出している理由は、そこに「超大質量ブラックホール」があるからだとされている。
一般的な理論モデルによれば、超大質量ブラックホールの周囲には、そこに落下しようと集まってきた物質によって「降着円盤」という円盤状の構造が作られる。この降着円盤とブラックホールとに働く潮汐力の相互作用によって、光速に近い速度でプラズマのジェットが放出される。
今回、ロシア・プルコヴォ天文台のミハイル・ピオトロビッチ氏らが『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』(8月24日付)で発表したのは、この超大質量ブラックホールがワームホールの入り口なのかどうか確かめる方法だ。
ワームホールから吐き出される超々高エネルギー もし超大質量ブラックホールがワームホールの入り口なのだとすれば、そこは別の時空につながっており、双方から物質が落下してくるということになる。
そのような物質がワームホール内部で衝突したとする。すると、それによって凄まじいエネルギーと放射線が放出される。
両方の入り口から吐き出されるプラズマの温度はじつに10兆度にも達し、降着円盤から放たれる光と区別可能なスペクトルを持つガンマ線が発生する。
ピオトロビッチ氏らによると、こうしたガンマ線は、活動銀河核の降着円盤では温度が低すぎて放出されないはずなのだという。
さらにジェットには特定のパターンがあり、ガンマ線の大部分はそのジェットに沿って放出されていると考えられる。
したがって、ワームホールから放出されるガンマ線特有のスペクトルを検出できれば、それがワームホールの存在を示す証拠になる。そしてNASAのフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡のような望遠鏡ならば、これを検出できるかもしれないとのことだ。
ワームホールでワープすることは可能か? もしワームホールが本当にあるのだとしたら、それを通過して宇宙の別の場所へワープすることは可能なのだろうか?
1つの難関は、もっとも近い活動銀河核ですら我々が暮らす天の川から数百万光年離れているということだ。そのため、それが本当にワームホールだったとしても、光の速さでも数百万年もかかってしまう。生身の人間の時間軸では、とてもではないが実用的ではない。
さらに、どうにかそこまでたどり着けたとしても、10兆度という想像を絶する強烈なプラズマの爆発が生じているその内部は、そもそも人間などが立ち入って無事で済むような場所ではない可能性もある。
2020年10月11日
カラパイアより
こうしたことを踏まえるなら、ひとまずは望遠鏡を通じてその壮大な宇宙のスペクタクルショーを楽しむのが賢い選択と言えるかもしれない。