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一般相対性理論の効果による軌道面の歳差運動

Posted by moonrainbow on 10.2022 ブラック・ホール   0 comments   0 trackback
ブラックホールで初めて「一般相対性理論の効果による軌道面の歳差運動」を発見?

連星ブラックホールの想像図
【▲ 2つのブラックホールからなる連星ブラックホールの想像図(Credit: SXS)】

連星が互いの周りを公転している時、その軌道は少しずつ歳差運動します。コマを回した時に、コマそのものの回転だけでなく、コマの軸が回転する様子を観察できることがありますが、これが歳差運動です。天文学では天体の自転軸の歳差運動は一般にもよく知られていますが、天体の公転軌道面もまた歳差運動を行うことが知られています

特に、連星の片方あるいは両方が高速で自転している場合、一般相対性理論の効果による軌道面の歳差運動が起こることが知られています。天体が高速で自転をしている場合、慣性系の引きずり効果と呼ばれる現象が発生することで、公転軌道に影響を与えるためです。

簡単に言えば、高速で自転している天体は周りの時空を “巻き取る” ため、時空の歪みによって天体の運動方向を変えてしまうのです。この効果は天体の自転が速ければ速いほど、天体自身が重いほど、そして公転軌道が小さいほど高くなります。

この効果が実際に存在することは、パルサーの連星系である「PSR B1913+16」で確かめられています。しかしながら、一般相対性理論の効果が比較的強いパルサーの連星系であっても、軌道面の歳差運動は極めて小さいものでした。PSR B1913+16の場合、歳差運動の周期は75年です。

これよりも強い効果が観測できるとすれば、それは高速で自転しているブラックホール同士の連星系が考えられます。ところが、電磁波による極めて正確な観測が可能なパルサーとは異なり、自ら電磁波を放射しないブラックホールで歳差運動を観測することは極めて困難でした。この状況を打開したのが重力波望遠鏡であり、2015年の初観測以降、重力波によってブラックホールの連星系を多数観測することができました。もしもブラックホール連星が歳差運動をしていた場合、重力波の振幅が時間と共に変化する様子が観測できると考えられます


GW200129の発生源
【▲ 図: GW200129の発生源である2つのブラックホールの合体直前の様子。公転軌道の軸 (紫色の矢印) が短時間で歳差運動をしているのが分かる。これは合体直前、軌道が小さくなればなるほど短時間で変化するようになる。 (Image Credit: Vijay Varma&Max Isi) 】

カーディフ大学のMark Hannam氏などの国際研究チームは、アメリカの重力波望遠鏡「LIGO」、およびイタリアにある欧州の重力波望遠鏡「Virgo」で捉えられた重力波の中から、2020年1月29日に観測された「GW200129」の信号を分析し、軌道面の歳差運動を発見したと発表しました。これはブラックホールでは初めての発見です。驚くべきはその効果の強さです。連星をなしていたブラックホールは合体直前の最後の数秒間で、何回も歳差運動の周期を迎えています。これはPSR B1913+16より100億倍も強力な効果です。

ただし、この発見には疑問もあります。GW200129の信号からは、ブラックホールが理論的な上限に匹敵する速度で自転していることが予測されます。GW200129の観測よりも前に同様の信号が捉えられなかったことは、これほど高速で自転しているブラックホールの連星は珍しいことを意味しています。これまで80回ほど観測された重力波の中で、このような珍しい現象をたまたま観測できる可能性は確率的に低いと見積もられており、GW200129の検出がまったくの偶然であるのか、それとも高速で自転をしているブラックホールの連星が理論的な予測よりもずっと多いのかは未知数です。この疑問は、2023年に予定されている重力波望遠鏡のアップグレードで解決されるかもしれません。

あるいは、「GW200129の重力波信号が軌道面の歳差運動を示している」という推定自体が誤りなのかもしれません。Hannam氏らの研究成果がNature誌で出版された10月より少し前の2022年6月に、Ethan Payne氏らはGW200129に関する論文をプレプリントサーバーのarXivに掲載しました。Payne氏らはこの論文で、重力波信号に含まれるノイズや不連続部分の処理に固有の問題があり、このデータを除去すると、軌道面の歳差運動を示す振幅の変調が消えてしまうことを示しました。これは軌道面の歳差運動を発見したとするHannam氏の成果に反論する形となっています。

ただし注意が必要なのは、Payne氏らの反論はあくまでプレプリントであることです。これは正式な査読 (簡単に言えば第三者チェック) を受けていない、いわば論文の “下書き” であるため、Payne氏らが示した信号処理プロセスが妥当かどうかは検証されていません。一方で、Hannam氏らの研究成果はNature誌上で査読済みであり、このことは研究内容が妥当であることを示しています。

Hannam氏の研究成果が正しいものとして維持されるのか、それともPayne氏らの反論が正しく、ブラックホールでは初となる軌道面の歳差運動観測は幻となるのか、結論が出るのはもう少し先のこととなりそうです


2022-11-05
Soraeより

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