4700万光年離れた渦巻銀河からニュートリノを検出。南極の氷の下から観測
渦巻き銀河のニュートリノを検出 美しい渦巻きで天文ファンから愛されている「M77銀河(NGC 1068)」では、高エネルギーの「ニュートリノ」が作り出されていることが判明したそうだ。
ここは私たちが暮らす天の川を除けば、一番研究されている銀河の1つだが、いまだにサプライズを届けてくれるようだ。
サプライズはほかにもある。それはこの発見が、宇宙望遠鏡や山頂の天文台ではなく、南極の氷の2.5キロ下にある「アイスキューブ・ニュートリノ観測所」からもたらされたことだ。
今回の発見は、宇宙を満たしている膨大な量の「宇宙ニュートリノ」を説明する手がかりになるだろうとのことだ。
宇宙を満たすニュートリノ
「ニュートリノ」の存在が最初に予測されたのは1930年のことだ。
オーストリアの物理学者ヴォルフガング・パウリは、核反応によって生成された物体のエネルギーと運動量が、もともとの量より少ないことに気づいた。
これではエネルギー保存の法則に反することになる。そこでパウリは、未発見の粒子によってエネルギーが持ち去られているに違いないと推測した。
だが、未知の粒子の捜索は困難をきわめ、実際にニュートリノが発見されたのは、それから20年以上が経った1953年のことだ。
ニュートリノの研究はその後も進み、現在では宇宙が「宇宙ニュートリノ」(宇宙線や天体が起源のニュートリノ)で満たされていることがわかっている。それは、毎秒数十億個が私たちを通り抜けていくほどの膨大な量だ。
それでもなお、ニュートリノは検出が非常に難しいことから、一体どこでこれほど大量に作られたのか今も不明なままだ。

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ニュートリノを生成する渦巻銀河 ところが今回の研究では、くじら座にある渦巻銀河「M77銀河」で、大量のニュートリノが生成されていることを明らかにしている。
この銀河は、こうしたニュートリノ生成銀河の代表的なものだろうと考えられるという。
この発見のおかげで、既知の発生源からのものより高いエネルギーを持つニュートリノが存在する理由を説明できるかもしれない。

渦巻銀河「M77銀河」 / image credit:NASA/JPL-Caltech/Roma Tre Univ.)
ここ数百年で発生したのものとしては地球に一番近い超新星「SN 1987A」では、大量のニュートリノの放出が確認されている。このことは、宇宙ニュートリノの主要な供給源は爆発する星であろうことを示唆している。
だが同じくニュートリノを作り出していることが判明したM77銀河に超新星があるのなら、すでに見つかっているはずだ。
4700万光年離れたM77銀河は、SN 1987Aよりずっと遠くにあるかもしれないが、それでも毎年検出されているほとんどの超新星よりも近くにあるのだ。
南極の氷の下にあるアイスキューブ・ニュートリノ観測所で検出
ちなみにM77銀河のニュートリノを検出した「アイスキューブ・ニュートリノ観測所」は、南極のアムンゼン・スコット基地の地下の分厚い氷の中に設置されており、ここで、高エネルギー・ニュートリノの発生源が初めて見つかったのは2018年のことだ。
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宇宙人の基地を彷彿とさせるアイスキューブ・ニュートリノ観測所 / Image credit: Martin Wolf, IceCube/NSF
それはM77銀河より100倍も遠くにある「ブレーザー」(銀河中心にある大質量ブラックホールのエネルギーで輝く天体)で、「TXS 0506+056」と呼ばれている。
幸運なことに、そのブラックホールから噴出される光速に匹敵する激しいジェットは地球に向いている。そのおかげで、ジェットから発生するガンマ線とニュートリノを同時に観測することができたのだ。
だがM77銀河とTXS 0506+056にそれほど共通点はないようだ。
M77銀河には、局所宇宙としては珍しく活動的な超大質量ブラックホールが存在するが、ジェットは検出されておらず、いわゆる「電波を出さない活動銀河核」に分類される。

ニュートリノが水の分子に衝突して生成されるミュー粒子によって放たれた光のイメージ / Image credit: Nicolle R. Fuller, IceCube/NSF
宇宙ニュートリノが大量にある謎 米ペンシルベニア州立大学の村瀬孔大博士は、「電波を出さない活動銀河核は、ブレーザーや電波を出す活動銀河核よりもたくさんあります。ここから、これまで観測されてきた宇宙ニュートリノの量を説明できるかもしれません」と述べている。
研究チームの1人、アデレード大学のゲイリー・ヒル博士は、「2018年のTXS 0506+056からのニュートリノ発見に続き、ニュートリノの安定した流れを作り出す発生源をまたもアイスキューブで発見できたことにいっそう興奮しています」とプレスリリースで述べている。
同じく研究チームの1人である米ウィスコンシン大学マディソン校のフランシス・ハルツェン教授によると、発生源を特定するだけなら、たった1つのニュートリノを検出できればいいのだという。
しかし「宇宙でもっとも高エネルギーな天体の隠された核を明らかにするには、複数のニュートリノを用いて観測する」しかないのだそうだ。
「アイスキューブ・ニュートリノ観測所は、M77銀河からテラエレクトロンボルトのエネルギーを持つニュートリノを80個ほど検出しました。それでもまだすべての疑問に答えるには足りませんが、ニュートリノ天文学の実現に向けた、次の大きな一歩であることは間違いありません」
ニュートリノは電荷を持たず、普通の物質とはあまり作用しないため、その発生源が宇宙をただよう塵によって隠されてしまうようなことはない。だが、物質とほとんど相互作用しないために直接検出することも難しい。
そこでアイスキューブ・ニュートリノ観測所では、ニュートリノの存在を間接的に検出する。
物質とほとんど作用しないニュートリノだが、まれに氷に含まれる水分子に衝突して、ミュー粒子(素粒子の1つ。ミューオンとも)をはじめとする粒子を作り出すことがある。
このとき条件が整うとチェレンコフ光という円錐状に広がる光が発生する。アイスキューブはこれを検出するのだ。

アイスキューブ・ニュートリノ観測所は、ストリングと呼ばれる86本の縦穴でニュートリノによって発生した閃光を検出する / Image credit: University of Adelaide
もっと大きく深い検出器ならば、さらに多くのニュートリノを比較できるようになるだけでなく、より速くより高エネルギーを帯びたニュートリノの検出も可能になる。
そのための第2世代アイスキューブが計画されている。これがあれば、M77銀河についてさらに詳しく調査できるようになるだけでなく、もっと遠くにある似たような銀河との比較も可能になるだろう。
この論文は、村瀬博士のPerspectiveとあわせて『Science』(2022年11年3日付)に掲載された。
2022年11月06日
カラパイアより