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ブラックホール周辺の構造とジェットの根元

Posted by moonrainbow on 03.2023 ブラック・ホール   0 comments   0 trackback
超巨大ブラックホール周辺の構造とジェットの根元を初めて同時に捉えることに成功

超巨大ブラックホール周辺の構造4
グローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)にアルマ望遠鏡(ALMA)とグリーンランド望遠鏡を加えた体制で観測された楕円銀河「M87」の中心部。ジェットの根元(背景)と超大質量ブラックホール周辺のリング構造(拡大図)を初めて同時に捉えることに成功したという

上海天文台/マックス・プランク電波天文学研究所(MPIfR)のRu-Sen Luさんを筆頭とする研究チームは、楕円銀河「M87(Messier 87)」の中心から放出されているジェット(細く絞られた高速なガスの流れ)に関する新たな研究成果を発表しました。研究チームによると、M87の中心に存在する超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)周辺のリング状構造と、ジェットの根元を初めて同時に捉えることに成功したといいます

今回の研究成果の解説動画(ヨーロッパ南天天文台による英語解説)

「おとめ座」の方向約5500万光年先にあるM87は、中心からジェットを放出する活動銀河のひとつであることが知られています。こうした銀河中心からのジェット放出には超大質量ブラックホールが関わっていて、ブラックホールを高速で周回しながら落下していくガスの一部がブラックホールの両極方向に高速で放出されていると考えられています


超巨大ブラックホール周辺の構造2
参考:2019年4月にEHTが公開した楕円銀河「M87」中心にある超大質量ブラックホールのシャドウ

2019年4月、国際研究グループ「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope:EHT)」はM87中心の超大質量ブラックホール周辺を電波で観測することに成功したとする成果を発表し、その画像を公開しました。オレンジで着色されたリング状の像を目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。リングに囲まれた暗い部分はシャドウ(影)と呼ばれていて、ブラックホールそのものはシャドウの中心に位置するとみられています。

ただ、世界各地に建設された電波望遠鏡を連携させて1つの巨大な仮想の電波望遠鏡として機能させる「超長基線電波干渉計(VLBI)」と呼ばれる手法を利用したEHTの観測でも、超大質量ブラックホール周辺の様子が完全に解明されたわけではありませんでした。

EHTから公開されたリング状の像は、シャドウを取り囲むように見えると予想されるフォトンリング(光子リング)を捉えたものとされています。MPIfRによれば、これまでにブラックホールへと落下していく物質の流れ(降着流、accretion flow)そのものが直接捉えられたことはなく、ブラックホールがジェットを放出する仕組みには今も謎が残されています。

Luさんを筆頭とする研究チームは今回、北米と欧州にある14基(当時)の電波望遠鏡で構成された「グローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)」にチリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」とグリーンランドの電波望遠鏡「グリーンランド望遠鏡(GLT)」を加えた体制で、2018年4月14日から15日にかけてM87を観測しました。その結果、ブラックホール周辺のリング状構造と放出されたジェットの根元を同時に観測することに初めて成功したといいます。

研究チームによると、GMVAの観測で捉えられたリング状構造(直径0.017光年)はEHTの観測で捉えられた構造(直径0.011光年)と比べて約1.5倍大きく、より厚いものでした。コンピューターシミュレーションを用いて検証した結果、この大きくて厚いリング状構造はM87中心の超大質量ブラックホールを取り巻く降着流だと結論付けられています。MPIfRの所長を務めるJ. Anton Zensusさんは「これらの新たな成果は非常に重要です、ブラックホール周辺の降着円盤とジェットがつながる領域を初めて直接見ることができたからです」とコメントしています


超巨大ブラックホール周辺の構造5
M87の中心にある超大質量ブラックホールの周辺で円盤を形成する降着流と放出されたジェットの想像図

2017年にM87の観測を行ったEHTは波長1.3mmの電波を用いて観測を行いましたが、GMVAはそれよりも長い波長3.5mmの電波を利用しています。国立天文台によると、異なる波長を用いるEHTとGMVAは互いに補完し合う関係にあり、GMVAはEHTと比べて“視力”は半分程度であるものの、感度はより高く、視野はより広いという特徴があります。

ALMAとGLTが加わった2018年の観測ではGMVAの解像度は南北方向で4倍以上に向上しており、波長3.5mmを用いた観測でもブラックホール周辺のリング状構造を画像化できるようになったとされています。GMVAを構成する電波望遠鏡は北半球の東西方向に広く配置されていますが、リング構造とジェットを捉える高い解像度を実現するためには南半球に位置するALMAの参加が欠かせなかったといいます。

「これまではブラックホールとそこから遠く離れたジェットを別々の画像で見ていましたが、新たな波長帯を用いることで、ブラックホールを取り巻く詳細な構造とジェットを1枚のパノラマ写真の中に同時に収めることができました」(Luさん)


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2018年4月のM87観測に参加した電波望遠鏡とその位置を示した図

“地球サイズの電波望遠鏡”として機能する国際的なVLBI観測網は、これからもジェット放出の謎を解明する上で欠かせない観測手段となります。MPIfRのEduardo Rosさんは「ジェットの放出をさらに研究するために、M87中心のブラックホール周辺を様々な波長の電波で観測する予定です」「今後数年間は刺激的なものになることでしょう、宇宙で最もミステリアスな領域のひとつの近くで起きていることをより多く学べるのですから」とコメントしており、超大質量ブラックホールがジェットを放出する仕組みの解明に向けた今後の観測に期待を寄せています。

また、国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘さんは「ブラックホール研究の歴史にまた新たな1ページが刻まれました。波長3.5ミリメートル帯を用いた観測は当初私たちが予想していたよりもはるかに強力で、波長1.3ミリメートル帯のEHTとともに、今後も一層観測が進むでしょう」とコメント。水沢局でも波長3.5mm帯の受信装置の開発・搭載試験が進められているといい、「今後は日本の電波望遠鏡も3.5ミリメートル帯国際ネットワークに加わることで、ブラックホール、降着円盤、ジェットの動画撮影にも挑戦していきたい」と今後の抱負を語っています


Source
Image Credit: R.-S. Lu (SHAO), E. Ros (MPIfR), S. Dagnello (NRAO/AUI/NSF), Helge Rottmann/MPIfR, S. Dagnello (NRAO/AUI/NSF)

2023年4月27日
sorae より

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