火星の核は「完全な液体」である可能性。生命の存在が維持できなかった理由と関連性
火星の核を通過する地震波を初観測 地球の核は液体と固体でできている。だが火星の核は硫黄と酸素を豊富に含む「完全な液体」である可能性が高いそうだ。
これは、NASAの火星探査機「インサイト」の新しい研究により、火星の核を伝わる地震波を初めて観測したことで明らかになったものだ。
このことは、ただ火星の核が硫黄と酸素をたっぷり含んだ液体鉄合金でできているというだけの話ではない。じつは生命の居住可能性とも関係している可能性がある。
かつて火星には地球に似た環境があったとされているが、現在は不毛の惑星となっている。
『PNAS』(2023年4月24日付)に掲載されたこの研究によれば、生命が存在する地球とその存在を許さない火星の命運を分けた大きな要因が核の違いかもしれないという。
火星の地震データから核の構造を分析、液体である可能性
メリーランド大学などの国際的研究チームは今回、火星で起きた2つ地震が火星の核をどう伝わるのか観察することに成功している。
火星の地震を「火震」というが、今回分析されたのはその火震と大きな衝撃によって生じた揺れの波だ。
そうした地震波が火星の内部をどう伝わるのか追跡するとともに、地球での同様の現象を比較することで、火星内部の密度や圧縮率を正確に推定することができる。
その結果からは、火星の核は液体である可能性が高いことがわかったという。地球の場合、外核は液体だが内核は固体なので、両者の最深部はかなり様子が異なっているようだ。
また、火星の核には、硫黄や酸素などの軽元素(原子番号の小さい元素)が大量に含まれているらしいこともわかった。
火星核の重さの5分の1は軽元素で占められており、地球に比べるとその割合が非常に高い。このことから、火星の核は地球の核よりもはるかに密度が低く、圧縮されやすいことがわかるという。

火星の内部と、地震波が惑星の核を通過する際の経路を描いたイラスト / image credit: NASA/JPL AND NICHOLAS SCHMERR
地球との核の違いが、生命体の存在と関連性? 火星と地球のこうした核の違いは、両者が形成されたときの条件の違いによるものであると考えられている。
そして、それは地球が豊かな生命を育んでいるのとは対照的に、現在の火星が不毛の惑星であることとも関係するかもしれない。
今私たちがこの地球で暮らせるのは、地球の核が地磁気を作り出してくれているからだ。これがバリアとなって太陽風から守ってくれるおかげで、地球には生命に不可欠な水が存在することができる。
ところが、火星の核からはこの磁気バリアが発生しない。だから、その地表は生命が存在できない、不毛の大地になったと考えられるのだ。

深さ10kmの地殻における火星の地震波の伝播と不連続面の底部における地震変換を模式的に示した図 / image credit:IPGP
火星はかつて地球に似た惑星だった
だが、そんな火星にもかつては磁場があったと推測されている。その地殻に磁気の痕跡が残されているからだ。
研究チームによれば、大昔の火星は生命が存在できた可能性のある惑星だったが、だんだんと環境が変化し、現在のような信じられないほど過酷な惑星になったのだという。
そして、こうした変化を起こした大きな要因として、外部からの激しい衝突のほか、核の状況が関係していると考えられるのだそうだ。
「ある意味、パズルのようなもの」と、研究チームの1人、メリーランド大学のヴェドラン・レキッチ氏はプレスリリースで語る。
たとえば、火星の核にはわずかな水素の痕跡があります。つまり、以前は水素が存在できる条件が整っていたはずです。
火星がどのようにして現在のような姿に進化したのか理解するには、そうした条件を理解せねばなりません
今回の研究では、火星の地震を手掛かりに、その核の構造を明らかにすることに成功した。
同じような方法を使えば、金星や水星のようなほかの惑星の内側に隠された秘密をも解き明かせるかもしれないとのことだ。
2023年04月28日
カラパイアより