ブラックホールの一部は、ブラックホールのように見える別の存在。「時空構造のねじれ」であるとする新たな仮説が発表される
ブラックホールの一部は別の現象であるとする新たな研究 極めて高密度で、強力な重力を持ち、光すら脱出することが不可能とされているブラックホールだが、まだまだ多くの謎に包まれている。
これまで、ブラックホールと考えられていたものの1部は、実は別の存在かもしれないとする新たな研究が報告された。
米国の研究チームが時空構造の奇妙な”ねじれ”(トポロジカル ソリトン)のそばを通る光を調べたところ、ちょうどブラックホールと同じになることが判明したそうだ。
『Physical Review D』(2023年4月25日付)に掲載された研究では、ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームが、「ブラックホールはブラックホールのように見える別の存在」との仮説を提唱している。
これまでのブラックホール理論の問題点
ブラックホールは、宇宙でもっとも謎と魅力に満ちた天体の1つだろう。無限の重力によって光すら逃れられないという話は、普段は星空に見向きもしない人たちだって好奇心を刺激されずにはいられない。
ブラックホールは、巨大な星が自分の重さで崩壊することで誕生する。そうした星は「特異点」と呼ばれる一点へ向けて無限に圧縮される。
こうして無限の密度をもつようになった特異点の周りには、光すら逃れられない領域が形成される。これがブラックホールの境界線である「事象の地平面(イベント・ホライゾン)」だ。
ところが、こうしたブラックホール理論には1つ大きな問題がある。それはこの宇宙に無限の密度を持つ点などあり得ないということだ。
その一方、一般相対性理論が予言したブラックホールと同じように振る舞う天体は観測されている。だからブラックホールの本当の姿を理解するには、この特異点をもっと現実的な”何か”に置き換える必要があるのだ。
だが、その何かが何なのかはまだ謎に包まれたままだ。

ブラックホールシステムの予想図 / image credit:LIGO/Caltech/MIT/Sonoma State (Aurore Simonnet)
量子重力と弦理論 この謎を解くには、量子のスケールで発揮される強力な重力「量子重力」を理解する必要があるとされている。
今のところ、量子と重力を結びつけることができる確かな理論はないが、その有力な候補とされるのが「超弦理論」だ。
この理論では、宇宙を構成するすべての粒子は、振動する小さな”ひも”でできていると考える。この宇宙にはさまざまな粒子が存在するが、それはひもの振動の違いによるものだ。
ただし、ひもは私たちが認識できる3次元空間で振動するだけでなく、10次元の時空(諸説ある)で振動しているとされる。だが私たちが知る4次元以外の次元は、きわめて小さくまとまっているので簡単には観測できない。

強力なジェットを放出するブラックホールのイメージ / image credit: ESA/ATG medialab
ブラックホールと同じ現象を引き起こす時空構造のねじれ 今回の研究によるなら、この小さな余剰次元が、時空構造のねじれを生み出す可能性があるのだという。
それは「トポロジカル・ソリトン(位相欠陥いそうけっかん)」と呼ばれるもので、アイロンをかけても取れない”シャツのしわ”のように、時空構造にいつまでも存在する。
これは、宇宙のいたるところに潜んでいる可能性があり、ブラックホールと似た現象を引き起こしているのだという。
研究チームが、ソリトンの近くを通過する光の振る舞いを調べたところ、ちょうどブラックホールとほぼ同じになることが判明したというのだ。
光はソリトンの周囲で曲がり、安定した輪のような軌道になり、ソリトンは影を落とす
キラルネマティック液晶で観測されたトポロジカル・ソリトンの一種であるツイストンの偏光光学顕微鏡画像 / image credit:ckerman and Smalyukh. Published by the American Physical Society
つまり、2019年に史上初めて撮影されたM87銀河のブラックホールが仮にソリトンだったとしても、ほとんど同じように見えると考えられるのだ。
だがソリトンは特異点ではないので、事象の地平面がない。その気になればいくらでも近づけるし、脱出することもできる。
幸か不幸か、地球のそばに詳しく研究できるようなブラックホールはない。
だが、もしも本当にトポロジカル・ソリトンが発見されれば、重力の本質の解明につながるだけでなく、量子重力や超ひも理論まで直接研究できるようになるとのことだ。
2023年05月21日
カラパイアより