雷からの反物質ビームをフェルミが観測 
地球から宇宙に飛び出す高エネルギーの電子と陽電子(想像図)。
雷によって反物質ビームが宇宙に向けて照射されることがあるという研究が発表されました。このビームは非常に強く、何千キロも離れた人工衛星で検出できます。
通常の物質はほとんどが電子や陽子などの亜原子粒子でできていますが、これに対し反物質は、質量とスピン(角動運量)は通常物質と同じですが電荷と磁性が逆の粒子から成ります。
このほどNASAのフェルミ・ガンマ線天文衛星に搭載された放射線検出器が、電子の反物質である陽電子の明らかな痕跡をおよそ30ミリ秒間にわたって検出しました。分析の結果、この高密度の放射線バーストの発生源は、エジプト上空を通過中だったフェルミから5000キロ以上離れたナミビア上空の稲妻だったことがわかったのです。
詳しくは、、、、
これは、地球のメカニズムに関する根本的な新発見です。どこかの惑星に反物質を作り出す雷があって宇宙に反物質を発射しているなどと言えばまるでSFのようですが、それが地球で起きているのです。
雷は最もエネルギーの高い光の形態である
ガンマ線を発生させることがあり、ガンマ線は対生成と呼ばれるプロセスを通じて陽電子を作り出すことがあることは以前から知られていました。
ある大きさのエネルギーを持ったガンマ線が空気中の原子と反応すると、ガンマ線のエネルギーが、物質すなわち電子1個と陽電子1個に変換されるというのです。
強力なガンマ線バーストで陽電子が数個できただけなら誰も驚かなかったのですが、フェルミが検知した稲妻は約100兆個の陽電子を作り出したと見られます。
稲妻が作り出した陽電子が地球の磁場の作用で集まって強いビームとなったのではないかと推測されます。このビームがナミビアの雷からフェルミまで陽電子を運んだ。フェルミに到達した数ミリ秒後、ビームは地球の磁場のさらに北方の部分に当たったという事です。これにより、陽電子の一部がこだまのように跳ね返って同じ経路を引き返し、2回目のビームとしてフェルミに到達したのです。
地球は太陽からの放射の直撃を常時受けているだけでなく、大規模な超新星爆発など、距離は遠いが強烈な現象によって発生する宇宙線を浴び続けているのです。
フェルミが検出したビームに含まれる陽電子の量から考えて、今回の雷は、宇宙にあるその他の発生源から地球の大気に到達する放射線をすべて合わせた量よりも多い放射線を、陽電子やガンマ線の形で短時間に作り出したことになるのです。
なぜごく一部の雷だけがガンマ線を発生させるのかは明らかになっていません。
この研究は「Geophysical Research Letters」誌に近日中に掲載の予定です。
Illustration courtesy J. Dwyer/FIT, NASA
National Geographic Newsより
January 12, 2011