実験により、タイムトラベルは不可能? 
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』でタイムマシン「デロリアン」に乗り込んだエメット“ドク”ブラウン博士を演じるクリストファー・ロイド。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のブラウン博士に心酔して「次元転移装置」の開発を考えているなら、やめておいた方が良さそうです。最新の研究によると、実験室で生成した極小サイズの“ビッグバン”を分析した結果、タイムトラベル(時間旅行)がまったく不可能であることが示されました。
光の曲がり方が通常とは異なる先進素材を使って宇宙誕生をシミュレーションしました。実験の結果、「前進する“時間の矢”を後ろ向きに曲げ、既成事実を元に戻す」という現象は実現不可能と示されました。
「タイムトラベルは現実世界で一度も成功していません。今回の新素材により、それが永遠に不可能だと判明した」との事です。
新しいビッグバン・シミュレーション装置は非常に小さく、幅はわずか20マイクロメートル(0.02ミリメートル)しかないのです。装置を構成する新素材は、金とプラスチックの薄片を交互に組み合わせた人工物質で、いわゆる「メタマテリアル」の一種です。メタマテリアルで光を操れば、“透明マント”の研究や、ブラックホールに閉じこめられた光の再現などさまざまな実験に利用できます。
研究で用いたメタマテリアルは、約137億年前のビッグバン時代の原始宇宙をモデル化するにあたって、十分妥当な素材でした。
メタマテリアルで作られたシミュレーション装置は、独特の光の曲げ方により、理論上の時空間モデル「ミンコフスキー空間」に近づき、3次元の空間に時間の次元を組み合わせた4次元宇宙のモデルとして機能します。メタマテリアルの平面での水平運動はおおむね空間の3次元に相当し、垂直運動は時間経過に応じた動きを示します。
緑色レーザービームを使い、メタマテリアル内でビッグバンに似た現象を発生させる実験を行いました。レーザー光が金原子に当たると、自由電子の振動によって擬似的な粒子「プラズモン」が生成されます。
プラズモンはレーザーがぶつかった点から放射状に外へ広がっていきました。これは、「ビッグバン後、ある一点から物質粒子が放射状に広がった」という宇宙科学の想定に適合します。
観察を続けていくと、放射状に広がるプラズモンが外側に移動するにつれて、経路が“ブレて”いくことがわかったのです。この現象は、「介入がなければ、システムは時間の経過とともに無秩序になる」という「熱力学第二法則」、いわゆる「エントロピー増大の法則」に合致します。
このシミュレーションモデルにおいてタイムトラベルは、「プラズモンが以前に移動した経路とまったく同一の経路に沿って移動し、“輪”を完成させる」現象として表現されます。ところが、エントロピーの影響などにより、プラズモンが経路を一度外れると、輪を描くことはもはや不可能だったのです。
結果として、「宇宙に存在する粒子も時間を逆行できない」という結論が導き出されました。
ただし、今回の研究が完璧には程遠いのです。現実世界にどの程度当てはまるのか、現時点では判断できません。
ほかの研究者からは疑問の声が上がっています。
今回の研究成果は、物理学研究のWebサイト「arXiv.org」で2011年4月に公開されています。
Photograph by Bruce Dale, National Geographic
National Geographic Newsより
April 28, 2011