宇宙誕生と現在の宇宙の解明につながる、未知の素粒子「ヒッグス粒子」の発見へ大きな前進

図 2 . 現実はヒッグス場の海のなかにあり、ヒッグス場と反応する粒子は抵抗を受けて光速では飛べなくなります。これは質量を持つことと同等です。
40年以上前から、宇宙の誕生後に存在すると予言されてきた“神の粒子”、ヒッグス粒子の探索が大きく前進しました。大型ハドロン衝突型加速器(LHC)による2つの実験で、ヒッグス粒子の存在を示す興味深い現象が初めて確認されました。

大型ハドロン衝突型加速器(LHC)のCMS実験グループがヒッグス粒子探索で行っている実験のイメージイラスト。赤色の線は高エネルギー陽子ビーム、黄色の線は衝突によって生まれた粒子の動きを表します。
Illustration courtesy CERN
2011年12月13日、スイスのジュネーブで欧州原子核研究機構(CERN)が記者会見を行いました。LHCのアトラス実験と小型ミューオン・ソレノイド(CMS)実験でヒッグス粒子の存在を示すデータが確認され、およそ125GeV(1250億電子ボルト、GeV=ギガ電子ボルト)の質量と判明したという事です。電子ボルトはエネルギーの単位ですが、素粒子物理学では素粒子の質量の単位として用いられています。
ヒッグス粒子が存在する場合、116~130GeVの質量範囲に収まる可能性が高いのです。
この現象はたまたま生じた揺らぎが原因かもしれないのですが、重要な意味を持っている可能性もあります。現時点では結論付けることはできず、研究を継続してもっとデータを集める必要があります。今回の結果は暫定的です。
しかし今回の実験では、ヒッグス粒子の質量範囲を絞り込む大きな仕事を成し遂げました。来年の終わりまでには、ヒッグス粒子が発見されているか、あるいは存在しないことが証明されると思われます。
ヒッグス粒子は、1964年にエディンバラ大学の理論物理学者ピーター・ウェア・ヒッグス氏が提唱しました。素粒子の「質量の起源」を説明する電弱理論における対称性の破れによるもので、ヒッグス場を量子化することで得られる粒子です。ヒッグス場によって質量を獲得する機構(ヒッグス機構)では、宇宙誕生の最初期状態ではすべての素粒子が自由に動き回れ、質量がなかったのですが、素粒子がヒッグス粒子と相互作用することにより(自発的対称性の破れ)、抵抗力を受け、それにより素粒子が動きにくくなる(質量を持った)と考えられてきたのです。つまり、宇宙はヒッグス粒子で満ちていて、物質を構成する素粒子はヒッグス粒子とぶつかり合って動きづらくなり、その動きづらさから、質量が生まれたのです。
未知の「神の粒子」、発見の可能性高まる
詳しくは、、、、
◆ヒッグス粒子の“変化”を計測するヒッグス粒子は寿命が非常に短いと考えられています。観測できるのは、ヒッグス粒子そのものではなく、ヒッグス粒子が崩壊して生成された粒子だけです。
今回、116~130GeVの質量範囲で過剰な量の崩壊粒子を観測しました、つまり、この範囲にヒッグス粒子が存在し得ることになるのです。
CERNによると、“偶然ではない可能性”は95%を超えるという事です。しかし、物理学の世界で正式に発見と認められるには99.99%以上の精度が求められるため、まだ“発見”には至っていないのです。
◆“神の粒子”の探索に適したLHCヒッグス粒子探しは科学の一大テーマです。物理学の標準理論(標準模型)にとって決定的に重要だからです。標準理論は素粒子の基本的な相互作用を非常にうまく説明することができますが、ヒッグス粒子が存在しなければそもそも成立しないのです。
メディアで“神の粒子”として紹介されるヒッグス粒子は、1960年代に
物理学者ピーター・ヒッグス氏によって存在が予言されました。「電子やクオークなどの質量を持つ素粒子と、光子などの持たない素粒子が存在するのはなぜか」という謎を解くためです。
ヒッグス氏は、宇宙が磁場と同様の“見えない場”で満たされていると想定しました。素粒子がほぼ相互作用することなく、この「ヒッグス場」を移動できるのであれば、抵抗は生まれないのです。その場合、質量はほとんどないという事です。
逆に、素粒子がヒッグス場と大きく相互作用する場合、質量は大きいことになります。
ヒッグス場を想定するのであれば、対を成す素粒子の存在を認める必要があります。これがヒッグス粒子です。
標準理論の下では、場に対応する素粒子が存在しなければ、場も存在しないのです。例えば、電磁場に対応する素粒子が光子です。
標準理論は「ヒッグス場が存在するなら、ヒッグス粒子も存在する」と予言しますが、質量については何も語っていません。これが探索の難しさの一因となっています。
ヒッグス粒子が発見されれば、1897年の電子の発見に匹敵する偉業となります。
◆ヒッグス粒子探しはハズレなし CERNでは、陽子同士の衝突をさらに続き、ヒッグス粒子の兆候を数多く検出し、正当性を裏付けていく予定です。
早ければ来年の夏にも、いずれかの結果が確定するかも知れません。
発見されれば、標準理論の確立に大きく貢献しますし、存在しないことが証明されたとしても、新たな物理学の幕開けにつながります。努力が無駄になるような“ハズレ”はないのです。
Ker Than for National Geographic News
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ナショナルジオグラフィックより
(写真はキッズサイエンティストより)
2011年12月14日
