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マイクロ波推進ロケット エンジン

Posted by moonrainbow on 14.2015 科学   0 comments   0 trackback
マイクロ波推進ロケット エンジンテストに成功

マイクロ波推進ロケット
水素に外部からマイクロ派でエネルギーを供給して飛翔するという新しいコンセプトを持つ、エスケープ・ダイナミクス社の衛星打ち上げロケット。 Image Credit:Escape Dynamics Inc.

2015年7月17日、米コロラド州のロケット開発スタートアップ、Escape Dynamics(エスケープ・ダイナミクス)社は、マイクロ波で送電したエネルギーでヘリウムや水素を加熱して推進力を生むロケットエンジンの試験に成功したと発表しました

エスケープ・ダイナミクスは、高エネルギーのマイクロ波を送電してヘリウムや水素などの推進剤を加熱し、推進力を生むエンジンの開発を行っています。従来の化学推進エンジンでは、水素などの推進剤と酸化剤を混合、燃焼させて推進力を生みますが、エスケープ・ダイナミクス社の目指す小型ロケットは、地上からロケットへマイクロ波を送電し、ロケット表面の熱交換器でエネルギーを熱に変換、推進剤を加熱して推進力を得る方式となります。

コロラド州の同社の施設内で行われたヘリウムを用いた静的推進実証試験では、ロケットエンジンの性能の指標となる比推力(Isp)は500秒を超え、ヘリウムの代わりに水素を使った試験では、600秒を越える比推力を示したという事です。この比推力を持つエンジンが実用化できれば、現在の化学推進ロケットのように複数のロケットを積み重ねて推進剤を使い切ったロケットの一部を切り離し、軽量化しながら飛翔する多段式ロケットではなく、再利用可能な単段式スペースプレーンが可能になります。

エスケープ・ダイナミクス社の構想では、マイクロ波推進式ロケットは「(水素)タンク、ターボポンプ、熱交換器、エアロスパイク・ノズル」から構成されるシンプルなものになります。酸化剤タンクや配管、燃焼室などが不要になると考えられ、ロケットを大幅に軽量化できる。従来はロケット全体の重量のうち、搭載する人工衛星などのペイロードの重量比は10%程度でしたが、同社の構想するロケットであれば、30%ものペイロードを搭載できるというのです。

コンセプト動画によれば、マイクロ波推進式ロケットはリフティングボディ型の宇宙往還機の形状となっています。射場に設置されたフェーズドアレイ式のアンテナからマイクロ波を送電して推進力とし、地上から打ち上げます。軌道上で衛星を切り離した後、大気圏に再突入して滑空し射場へ帰還します。レティシア・ギャリオット社長は「再利用可能で航空機のように運用でき、200kgまでのペイロードを宇宙に送るコストを大幅に下げる単段式スペースプレーンを市場に投入可能です」とコメントしています。

超小型衛星による、地球観測衛星網を運用するプラネット・ラブスのウィル・マーシャルCEOは、「現在では小型衛星は1キログラムあたり2万5000ドルから5万ドルのコストがかかりますし、他の衛星と打ち上げ機会をシェアしなくてはなりません。よりコストの低い、恒常的に宇宙アクセスが可能な手段の構築を大いに支持します」と述べています。


コンセプトの点では大いに期待できるエスケープ・ダイナミクス社の技術ですが、衛星打ち上げシステムとして実用化するまでにいくつもの課題や疑問点があります。現状で入手可能な発表資料から、宇宙エレベーターニュースの佐藤実 科学ディレクターと共に疑問点を検証してみました。

--マイクロ波で水素を加熱して飛ぶロケット、実現性はどうでしょう

佐藤実:マイクロ波を電源としてではなく熱源として使うという点が興味深いところです。マイクロ波を効率よく熱に変えるのは難しいので、まず考えないと思います。つまり、この技術のキモは”熱交換器”ですね。資料には『およそ3m×5mサイズのセラミック・マトリックス・コンポジット(CMC)熱交換器』との記述しかなく、おそらく具体的にはまだないのだろうと思います。この面積でよいのならば、宇宙エレベーターのクライマーにもぜひ使いたい技術ですね。
熱交換器の詳しいことはまったくわかりません。マイクロ波の受信部と熱交換器は一体のようです。黒体に近いセラミックということだと思いますが……。熱交換器は帰還時の熱遮蔽システムとしても使えるとのことです。マイクロ波を熱に変換して水素に伝えた上に、再突入時には断熱もできるとは、なんだか夢の材料のようです。ここを知りたい。

--比推力600秒との発表ですが、これは真空中比推力または海面上でしょうか?

佐藤実:エスケープ・ダイナミクス社の資料には、『真空中比推力は750-850秒』とあります。よって、600秒との発表は海面上と考えられます。

--マイクロ波を熱変換して水素を加熱する方式で、ロケットから酸化剤タンク、エンジンの燃焼室などが不要になりますが、マイクロ波の受信部や熱交換器の重量との差し引きはどうでしょう?

佐藤実:ここは気になるところです。パルスエンジン的なものを想像していたところ、『ターボポンプで150気圧に加圧』とのことです。動力はどうするのか書いてません。酸化剤のタンクはないので、電動だとすると電池も必要になりますね。電池はどこに置くのでしょう。

--地上から飛翔中のロケットを正確に追尾して、軌道上までマイクロ波を送電できるのでしょうか?

佐藤実:原理的にはともかく、現在の技術では難しいと思います。宇宙太陽光発電の課題と同じです。アンテナを向けて狙うことはできると思いますが、3m × 5 mのサイズにマイクロ波を当てるのは相当に難しいでしょう。ターゲットが小さいので、現在の技術ではこれだけの距離を隔てて収束させるのは困難です。収束させるのは諦めて、熱交換器に十分なエネルギーを与えるだけの強度で広い範囲にマイクロ波を送る方法も考えられますが、必要な電力は膨大になります。
ひとつ面白いと思うのは、打ち上げ用とブースト用に送電システムが分かれていて、打ち上げ用にはフエーズドアレイ・アンテナを、ブースト用にはパラボラアンテナのアレイを使うことになっている点です。ブースト用のパラボラアンテナがサイドローブ抑制レドームに収められているのは面白いアイデアです。

--マイクロ波送電施設は地上に固定になるため、射点の制約が大きいのではないでしょうか。空中発射ランチャーのように、航空機が離発着可能な場所であればどこからでも打ち上げ可能なシステムの方が実際の運用コストは低いのではないでしょうか

佐藤実:射点の制限ももちろんですが、必要な電力をどう確保するのかが気になります。発電や蓄電の施設も要るはずですが、そのコストを含めても安くできるのかどうか。推力も気になります。この方式で推力はどの程度出るものか、ポンプの性能で決まるのでしょうが、そこがまったくわかりません。今回の実験の詳細を知りたいです。

エスケープ・ダイナミクス社の発表を検証してみると、今回発表されたエンジン性能だけでなく「マイクロ波でエンジンへ外部からエネルギーを供給する」という方式にまだ課題があることがうかがえます。米Spacenews.comによればギャリオット社長は、実用化までの期間を「3~8年」と述べましたが、衛星打ち上げシステムとしての完成までには、技術的跳躍が必要になると見られます。

microwave.jpg
地上アンテナからのマイクロ波供給のイメージ。打ち上げ時には射点近くのフェーズドアレイアンテナ、離床後の加速にはパラボラアンテナを使うという。
Image Credit:Escape Dynamics Inc.

Escape Dynamics Space Launch



宇宙エレベーター協会(JSES)より
2015年8月7日

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