重力レンズが見せたガンマ線フレアのリプレイ
QSO B0218+357から放たれた光子が地球に届くまでの概念図。光は途中の銀河B0218+357Gによる重力レンズ効果を受け、長い経路を通ったものは11日差で観測される(提供:NASA/ESA; AGN image credits: NASA E/PO - Sonoma State University, Aurore Simonnet))
70億年前にクエーサーから放射されたガンマ線が、重力レンズ効果を受けて2つの異なる経路を通ったことによって、11日差で2回観測されました。このクエーサーは観測史上最も遠い超高エネルギーガンマ線源だという事です。
アインシュタインの一般相対性理論によれば、大質量の天体の重力がレンズのような働きをすることで、そのレンズ源の向こうにある天体の像がゆがんだり明るく見えたりします。この重力レンズ効果によって、遠方にある非常に暗い天体も見ることができるようになるのです。
さらに、レンズ中の異なる経路を通った光はある時間差で地球に届くので、その光の明るさが変われば、同じ変光が繰り返して見えることになります。
観測史上最遠となる高エネルギーガンマ線源の発見も、地球とガンマ線源との間にある巨大銀河による重力レンズ効果のおかげで可能となったものです。
さんかく座の方向に位置する「QSO B0218+357」は、活動的な銀河中心の超大質量ブラックホールから強い放射が見られる「ブレーザー」と呼ばれる種類の天体(クエーサーの一種)だ。このブレーザーで70億年以上前に巨大爆発が起こり、非常に高エネルギーのガンマ線フレアが発生しました。
放射されたガンマ線は発生から10億年以上後に、ブレーザーと地球との間に位置する別の銀河「B0218+357G」を通過し、2014年7月14日に地球に届いてNASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」で観測されました。ガンマ線アウトバースト検出の報告を受け、遠方宇宙で起こった爆発的現象を観測しようと世界中の多くの望遠鏡が即座にブレーザーへと向けられた。ラパルマ天文台のMAGIC望遠鏡もこの天体を観測しようとしたが、あいにくこの夜は満月でした。
しかし、2012年にフェルミや電波望遠鏡で行われていた観測により、このブレーザーからの光のうち長い経路を通り重力レンズ効果を受けたものが11日後に地球に届くことがわかっていました。つまり、同じブレーザーからのガンマ線フレアを再観測できるチャンスがあることになるのです。
果たして11日後、MAGIC望遠鏡をQSO B0218+357に向けたところ、予測通り非常に高エネルギーのガンマ線フレアが観測され、QSO B0218+357が観測史上最も遠い高エネルギーガンマ線源であることが確かめられたのです。
2016年11月9日
Astro Artsより